あまりにも想定外の事態に、少しうろたえ過ぎではないか。続けざまの天変地異に続く災害報道を受け、7年前、1000年に一度の自然災害と、そのリスクを未然に回避できなかった人災が重なり、甚大な被害を受けたこの国がまたしてもの想いも抱いた。
そもそも近代的なシステムに対する日本的な思考や習性が、2次災害を生んだのではないか。脆弱過ぎる。この感慨とともに思い出したのが、1年以上“積ん読”状態にあったナシーム・ニコラス・タレブ著の「反脆弱性」という本だった。いざ紐解いてみると、<不確実な世界を生き延びる唯一の考え方>とのオビ文の通り、極めて実践的な「最強の啓蒙書」に違いないと確信した。
ナシーム・ニコラス・タレブ(2015年撮影、Getty Images)
この「反脆弱性」、同著者の前作「ブラック・スワン」ほどは、版を重ねていない。理由は、本書に含まれる情け容赦ない、痛快な批判をスルーしたいと考える人が多いからではないかと思う。
それにきっと、この「反脆弱性」という書籍名がややこしいのだ。何しろ二重否定の四字熟語である。いっそオリジナルのネーミングに敬意を払い、原題「Antifragile」にならった邦題「アンチフラジャイル」とすればよかったのかもしれない。
しかし、今年、ピクサー製作の映画「リメンバー・ミー」に惜しげもなく頰を濡らした者としては、こう考える。もし、あの映画が原題の「COCO」(劇中のおばあちゃんの名前)そのままに、邦題も「ココ」であったなら、映画館に足を運んだのだろうかと……。
脆弱/頑健/反脆弱の3つに分ける
さて、「反脆弱性」の著者のタレブは、リーマン・ショックを予見したトレーダーを経て、研究者へと鞍替えした人物だ。変動性がマネーを生む金融の世界に身を賭してきた経験から生まれた「知」だからこその迫力がある。
同書冒頭の「宣言」を引用してみよう。
“衝撃を利益に変えるものがある。そういうものは、変動性、ランダム性、無秩序、ストレスにさらされると成長・反映する。そして冒険、リスク、不確実性を愛する。こういう現象はちまたにあふれているというのに。『脆い』のちょうど逆に当たる単語はない。本書ではそれを「反脆い」、または「反脆弱性」と形容しよう”
著者は、物事の性質を3つに分ける世界観を提示する。変動に弱い「脆弱(フラジャイル)」、変動に強く壊れない「頑健(ロバスト)」、変動を利用し利得にする「反脆弱(アンチフラジャイル)」だ。
複雑化した社会システムがゆえに、タレブが「ブラック・スワン」と呼ぶ、予測不能ながらとてつもない衝撃を与える前代未聞の事柄が生じやすくなっている。人間がコントロールできない自然現象に加え、人為的な不確実性が高まっている現代において、「反脆弱性」を身につけるべきだということだ。