ビジネス

2018.10.01

スタートアップも大企業を巻き込む 世界を変える女性たちの挑戦

2015年春のある日、サンフランシスコのソーマ(SoMa)地区にあるスタートアップ企業ガストー(Gusto)のエンジニアで、トップ・パフォーマーとして活躍していたジュリア・リー(当時26歳)は、同社の共同創業者でCTOのエドワード・キムに個別ミーティングを申し込んだ。ガストーは人事管理ソフトウェアのスタートアップだ。「仕事は大好きですが、悩みがあります」とリーは切り出した。

スタンフォード大学を卒業したリーは、グーグルやパランティアでインターンを経験していた。ガストーのエンジニアチームは18人、その中で女性はリー1人だけだったのだ。ガストー入社前にも、リーはキムにこう告げていた。

「女性エンジニアであることで『問題を解決できないだろう』と思われることが多いんです」。しかし、ガストーにおいても彼女は、チーム内でたった1人の女性であることに疎外感を抱き、自信喪失を告白せざるを得なかった。

キムはとても真剣に耳を傾けてくれた、とリーは言う。実際に彼は他のテック企業のエンジニアチームの男女比を調査する1人プロジェクトを立ち上げた。結果は、惨憺たるものだった。

「他のどのテック企業も、ジェンダーバイアスによる壁を解読できず、解決していないということは我々にとってはチャンスだと思いました」とキムは言う。

「多様な人材を抱えるスモールビジネスの顧客に向けて人事がどうあるべきかを考えると、私たち自身がチームを多様化する必要がありました」

キムとリーのミーティングを経て、ガストーの人事管理チームは女性エンジニアを惹きつけるためのプランを考えた。最初のステップは、仕事内容の説明文から“ニンジャ・ロックスター・コーダー”など男性を連想させる言葉を削除することだった。また、大胆な施策として15年9月からの6カ月間エンジニアの採用活動を女性のみに絞った。さらに女性向けとしては最大のテック・カンファレンス、グレース・ホッパー・セレブレーションのスポンサーに2年間で6万ドル費やした。

3人の男性共同創業者たちが認める通り、当初ガストーではダイバーシティは後回しにされてきた。そして、取り組みが進むにつれて、ダイバーシティは自然には起こらない、ということに気が付いた。15年にCOOを採用する際には女性を優先して候補者を選んだ。取り組みを打ち出した後も女性の就職希望者はあまり増加しなかった。社内に2人の専任リクルーターを置き、シンガポールを拠点とする人材マネジメント会社タレントダッシュと契約し、女性の人材開発を進めた。

女性エンジニアの採用には時間がかかったものの、ガストーは決して自社の基準を変えることはなかった、とキムは言う。「多様性を優先させると、人材のレベルを下げざるを得ないだろう、と他から言われることがありますが、それは間違っています」。

女性のみのエンジニア採用活動は6カ月で終わった。「目標を超えたところでやめました」とキム。米教育統計局によるコンピュータ・サイエンスを専攻する女子学部生の割合18%を目標としていたが、21%に達したのだ。現在は、ガストーに在籍する70人のうち17人が女性である。以前より楽になった、と人事部門を統括するメアリアン・ブラウン・コーイーは言う。「ドミノ効果のように、女性は自身が歓迎されるコミュニティに来ます」。

キムの次の目標は、エンジニア部門の幹部に女性を登用することと同部門の人種の多様化だ。「ひとつの問題にフォーカスすることで我々は成長してきました。次へと進み続けます」。
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文=スーザン・アダムス(P68〜69)、岩坪文子(P70〜71) 写真=ティモシー・アーチボルド(P69)、安藤 毅(P70)、ラミン・ラヒミアン(P71)

この記事は 「Forbes JAPAN 100通りの「転身」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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