収穫の秋「良質なブドウなくして、美味しいワインなし」

シャンパーニュ・パスカル・ドケ(Pascal Doquet)でのシャルドネのブドウの収穫風景(2018年9月撮影)


筆者も、ルイ・ロデレール(Louis Roederer)の畑でブドウ収穫の体験をした。ルイ・ロデレールは、244ヘクタールもの広大な畑を保有し、これらの自社畑はオーガニックまたはビオディナミ栽培を行っている。

昨年は収穫中に雨が降り、ぬかるんだ畑で収穫する日もあったが、今年は収穫期まで天気が持ち、畑には健康でツヤツヤしたきれいなブドウがたくさん見られた。ワイン用のブドウは美味しくないという話も聞くが、それは間違いだ。しっかりと成熟したブドウは口の中で甘さが広がり、酸味もあるので甘ったるくなく食べても美味しい。

ブドウを摘む作業は、中腰の態勢が続き、背中や腰が痛くなる。手持ちのカゴにいっぱいまでブドウを摘んだら、約50キロ容量の箱に移す。この作業の繰り返しだ。急勾配の畑も多い。

ブドウはワイナリーに到着するとすぐに圧搾される。50キロのブドウの箱を次々と圧搾機に入れていく。力がいる仕事なので、ここは体格の良い男性たちの出番だ。あるワイナリーでは、忙しい収穫期には、地元の消防士が助っ人に来ていた。ブドウ摘みを手伝う地元の人もいる。収穫は、地域をあげての一大行事だ。


シャンパーニュ地方の伝統的なコッカールプレスというブドウ圧搾機。

ワイン造りではリーダーシップとチームワークが成功の鍵となるが、それを最も実感するのがこの収穫期だ。特に大手のシャンパーニュメゾンでは多くの人が関わり、シャンパーニュ地方全域に広がる畑でのブドウ収穫からワイナリーでの工程まで、10日間から2週間の繁忙期を乗り切る。

ルイ・ロデレールでは、約600人の収穫人を雇い、244ヘクタールの自社畑のブドウを収穫、圧搾し、畑の区画ごとに450ものタンクや大樽を使ったワイン醸造を行う。さらには、買いブドウで作るワインの醸造も行う。

ブドウの収穫や醸造での判断は、今後のワインのクオリティに大きく影響する。年ごとに、綿密な戦略と実行が必要となる。予期せぬ問題が発生することもあるし、数々の人間ドラマが起こる。小さい判断の積み重ねが、最終的な成功を決めるのだ。あらゆる場面でリーダーシップを求められる醸造家にとっては、体力的にも精神的にも大変だが、最もエキサイティングな時でもある。

「収穫は1年のハードな畑仕事が報われる、最も楽しみなとき」という、シャンパーニュの栽培醸造家のパスカル・ドケさん(Pascal Doquet)の言葉が印象的だった。



2018年のシャンパーニュはブドウの質・量ともに恵まれ、素晴らしいヴィンテージになることが期待され、生産者たちは笑顔で収穫を終えた。

シャンパーニュは、規定により最低15ヶ月の熟成が義務付けられているため、早いものでもリリースまでに2年以上はかかる。プレスティージュ・キュヴェなど長いものであれば、10年近くの時を経てからリリースされる。シャンパーニュ愛好家にとっては、この長い時間を待つというのも楽しみの一つなのかもしれない。

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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文・写真=島悠里

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