道の向こうに何がある? 「運命は踊る」が描く皮肉なる人生

(左)ミハエル役のリオール・アシュケナージー、(右)ダフナ役のサラ・アドラー((c) Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017)



(c) Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017

「3部構成にしたことで、観客に感情の旅を提供することができた。第1部で衝撃を与え、第2部で幻惑させ、第3部で感動を与える。それぞれは、映画的な技法を駆使することで、中心となる人物の心情を反映したものになっている」

こう語るサミュエル・マオズ監督だが、その演出はいたって寡黙だ。登場人物たちのセリフは絞り込まれ、徹底的に考え尽くされた映像で、この運命のドラマが展開されていく。揺らぎのないカメラワークと真上から撮る「神の目」アングルが、まるで現代の神話のように、この作品を彩っていく。

とくにカメラの性能が上がり、手持ち撮影が多用されるようになってきた昨今の映画界にあって、マオズ監督のブレのない固定映像に対する拘りは、かなり新鮮に映る。ひとつひとつのカットもおろそかにせず、細部にまで目配りされた映像は、まるで美術作品を観ているようだ。

そして、寡黙さを特徴づけるセリフの少なさは、観る者を限りない想像力の領域へと連れ出す。とくに3つ目のダフナの物語では、崩壊してしまったミハイルとの関係、その原因については、すぐには明らかにされないため、観客の想像力はしだいに広がっていく。そして、ある事実に突き当たるとき、激しく感情が揺さぶられる。

ちなみに原題である「FOXTROT」(フォックストロット)は、「前へ、前へ、右へ、ストップ、後ろ、後ろ、左へ、ストップ」という元の場所へと戻って来るステップで、3つの物語のなかでも、それぞれ象徴的なシーンとして使われている(ヨナタンがいる検問所も「フォックストロット」とよばれている)。


(c) Pola Pandora - Spiro Films - A.S.A.P. Films - Knm - Arte France Cinéma – 2017

「偶然とは身を隠した神の仕業と、アインシュタインは言った。フォックストロットは、人間が運命と踊るダンスなのです。いろいろバリエーションはありますが、すべて出発点に戻って来てしまう。何が起ころうと、最終的には同じ場所に戻ってしまう。それが運命なのです」

サミュエル・マオズ監督が「フォックストロット」に込めた意味は大きい。また、劇中には3回ほどラクダが登場する。とくに最後のラクダは、この運命のドラマに、あっという驚きをもたらしてくれるので、楽しみにご覧あれ。

作品のラストには、また冒頭と同じ、荒野をまっすぐに延びる1本道の映像が登場する。道の先の向こうに何が待っているかは、50秒後にわかる。

連載 : シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>

文=稲垣伸寿

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事