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2018.09.30

楽天の幹部はなぜ「死の山」に挑むのか? 120人登山に密着

谷川岳(Navapon Plodprong / Shutterstock.com)


「あえて大変な山に登る」
 


「面白いでしょ」。登山を終え、足を氷で冷やしながら三木谷社長は飄々と笑っていた。昨年4月に左足のアキレス腱をテニスで負傷して走れないというが、毎日ストレッチや腹筋100回、週3回は1キロの水泳を欠かさない。登山で酷使した足は真っ赤に腫れ、引きずっているように見えたが、「根性ですよ」と決して弱音は吐かない。「みんなで一つの目標に向かって登り切ることが大事。一体感が出て思い出になるから」



戦後から高度経済成長期にかけて日本企業で行われてきた「社内運動会」や「社員旅行」は減少したものの、組織力を強化するために再び脚光を浴びている。運動会は米国シリコンバレーでも導入されている。登山も一見このような動向と重なるが、「ラフティングやゴルフなど、ただ楽しむだけではダメ。あえて大変な山に臨む。大変なことを全員でやりきるのはビジネスにも通じる」と三木谷社長。これが楽天流の「チームビルディング」という。

共同創業者で常務執行役員CPOの小林正忠さんは、楽天をこう表した。「うちは、Global Japanese Companyですね。どうやったらOne Teamになれるのかを考えて始めたのが登山。個ではなくチーム重視です」

このような考え方は、外国人社員の意識にも浸透しているようだ。楽天グローバルマーケティング統括部ディレクターのラフール・カダバコルさんは、谷川岳登山を「Very cool」と評価し、「仕事で会うのとは違い、世界のCEOらとも個人的に出会えてコミュニケーションが取りやすくなる。最初は無理かもしれないと思ったけれど、楽天的にできた」と話した。

ドイツから参加した楽天ヨーロッパのプレジデント、アリエン・ヴァン・デ・ヴァルさんは、「以前はアマゾンに在籍しており、賢くて素晴らしい集団だったが、個人の力が重要視されていた。一方で楽天は連携が取りやすく、人間味ある会社」と明かした。「ヨーロッパではアマゾンの知名度が高いので、楽天を大きくするのがチャレンジだ」

「ワークハード、ライフハード」。三木谷はワークライフバランスが重要視される潮流にも異論を唱える。「一生懸命働き、楽しむ。バランスなんて取れませんよ。生活の中にもビジネスのインスピレーションはある」と説く。仕事も私生活も全力投球。「会社も一つのコミュニティだ」と。厳しい登山を終えた各国のリーダーはともに温泉に入り、酒を酌み交わして親交を深めた。



巨額のスポーツ投資を先行し、話題となっている楽天。2017年からスペインの名門サッカーチームFCバルセロナとメインパートナーとなる契約を年間5500万ユーロで4年間結び、今年は経営権を持つサッカーJ1のヴィッセル神戸にアンドレス・イニエスタ選手を獲得したニュースで驚かせた。

急速に拡大する「コミュニティ」を駆使して「Rakuten」ブランドをどう世界に浸透させるか。三木谷社長のグローバル展開の青写真に注目が集まる。

文=督あかり、写真提供=楽天

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