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2018.09.26

【独占】ウィル・スミスと本田圭佑が「ドリーマーズ・ファンド」をつくった理由

「ドリーマーズ・ファンド」ファウンダーの本田圭佑(左)とウィル・スミス(右、Getty Images)


野村HDのイノベーション推進担当の執行役員、八木忠三郎と金融イノベーション推進支援室で投資を担当する江草拓人らは、本田サイドからドリーマーズ・ファンドの話が持ち込まれて以来、10カ月間をかけて、30回以上の面談を重ねてきた。そして4月、CFパチューカに在籍していた本田を訪ねてメキシコに飛んだ。

江草は、「メキシコの本田さんの自宅で、夜7時から話を始め、終わったのは10時を過ぎていました」と振り返る。

「昨年、この話を聞いたときは疑問がありました。ドリーマーズ・ファンドのコンセプトは、シード期やアーリーステージという段階のベンチャー企業を投資対象にするというものです。そんなことできるのかなと思ったのです」

シード期やアーリーステージとは、まだアイデアだけはあるものの会社が設立される前だったり、会社は設立されたものの、まだ商品やサービスができあがっていない段階のことだ。江草が続ける。

「大化けするかどうか未知数の段階でスタートアップ企業に投資するのはリスクが高いだけでなく、そもそもそうした可能性を秘めた企業を探し当て、アクセスすること自体が難しい。大半は起業家として成功した人や有名人など個人のエンジェル投資家が、スタートアップを支えています。そのため、有望な起業家の情報も自然とエンジェルに集まり、インナーサークルが形成されます。

本田さんはここに気づき、2年ほどかけてインナーサークルへのネットワークをもっている人を探していました。この強固なネットワークに、『日本代表として入っていきたい』とおっしゃっている。何度も彼と話してきましたが、本気で挑戦されるんだなと、すごい情熱を感じました」


野村ホールディングス イノベーション推進担当 執行役員の八木忠三郎(右)と金融イノベーション推進支援室の江草拓人(撮影=小田駿一)

成功するかどうかわからない段階で、資金を貸してくれる者はいない。そうなると、起業家は自然と「エンジェル」と呼ばれる投資家に集まり、エンジェルのもとに可能性を秘めた貴重な情報が集まる。日本の大企業がウーバーなど従来型のビジネスを壊して、世界を変えるシリコンバレーの若い企業に投資することはある。だが、それは成功後の出資だ。大化けした後にお金を出して参画しても、影響力もリターンも限定的になる。

有名人の「サイドビジネス」ではない

メキシコの本田宅を訪ねた後、野村HDのチームはその足でコロンビアに飛んだ。来年公開予定のウィル・スミス主演の映画『Gemini Man』が、コロンビアのカルタヘナで撮影されており、そこに乗り込んだのだ。しかし監督が撮影場所を二転三転させていたため、ウィルらのスケジュールは過密なうえに予定が立たない状態になっていた。

野村HDの八木忠三郎が振り返る。

「コロンビアまで来たものの、もう面会は不可能かと思いました。ところが、ウィルさんは急遽、自分の休日を空けてくださった。これだけでも彼の思い入れがわかります。

彼は自分が宿泊中のホテルのスイートに私たちを招き入れました。彼に私たちが質問したのは、矢田さんを雇った理由でした。信頼関係を知るためです。すると、ウィルさんと矢田さんの間には強いエピソードがあることが聞けました。本田さんと中西さんの関係も同じです。私たちが聞きたかったのは、(信頼関係の深さを測る)エピソードだったのです。4人はそれぞれ実績があり、お互いを評価していて、高い志を共有しています。これは簡単に崩れないチームだなとわかったのです」

八木はウィルにこう言った。

「4人のうち、誰かひとりでも欠けたらこのファンドはうまくいきません」

有名人が本業の合間を使ってサイドビジネスをやるわけではない、と野村HDは確証を得たのだ。その代表的な例として、Forbes JAPAN11月号(9月25日発売)から一つだけ紹介したいのが、本田圭佑と中西武士が探し当てた、ウィルと矢田の関係である。
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文=藤吉雅春

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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