ビジネス

2018.09.25

人を動かすスタバのストーリー シュルツ元会長の卓越した話術

スターバックスのハワード・シュルツ元会長(Alex Wong/Getty Images)


シュルツのようなリーダーは、新入社員や顧客、関係者に刺激を与えるため、決して飽きることなくシグネチャーストーリーを繰り返す。シュルツは数十年の間、この出来事を説明するため、全く同じ言葉を使いながら頻繁に、一貫してこのストーリーを語ってきた。

シュルツは、1997年に発売された著書『スターバックス成功物語』でミラノのカフェを「ロマンスとコミュニティーのシンフォニー」だと述べた。その20年後、シュルツは米人気テレビ司会者のオプラ・ウィンフリーにミラノでの経験について「カフェに入ると、コーヒーの活動とロマンス、劇場のシンフォニーが、コミュニティーの感覚を作り上げている光景を見た」と語った。

シュルツのシグネチャーストーリーは、消費者が欲している“本物”の体験を、シンプルかつ強力に実現する方法だ。このストーリーはジュリー・ナポリ教授(マーケティング学)が定義する、偽りのないブランドの3つの側面「遺産」、「誠実さ」、「品質へのコミットメント」をすべてクリアしている。顧客は、ある商品がどのようにして、どんなインスピレーションを受けて作られたのかを知りたがっている。そして、会社の背後にいる人々についてや、その人々が高品質な製品提供にどれほどコミットしているかを知りたがっている。

スターバックスによるミラノ文化の米国輸入はこれで終わりではない。同社は傘下のベーカリー、プリンチ(Princi)の事業拡大を計画している。このベーカリーもミラノから始まり、欧州で高い評判を築き上げた。プリンチが新たに開く米国店舗は「ミラノの精神」を米国各地にもたらすだろう。もちろん、シュルツがかつてミラノを訪れたときのストーリーは、スターバックスブランドにこれからも影響を与え続けるはずだ。

顧客は、ブランドやロゴよりも、価値観に基づいて商品を買う。その会社を率いる人を突き動かしたストーリーほど、会社の価値観をうまく示せるものはない。シュルツはこう語る。「全ての会社には、守るべきものが必要だ。会社は、自らを築き上げた情熱や個性を失わずに成長できるが、それが可能なのは価値観と人々が原動力となっているときだけだ。重要なのは心だ」

人にインスピレーションを与えるリーダーは、その心に触れる。ストーリーテリングは、そこにたどり着く手段だ。心に触れるストーリーは、決して古くはならない。

編集=遠藤宗生

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