──対話が重要とわかっていても、それができていない企業が多いように感じます。
なかなか上手く対話ができないのは、自分のメンタルモデルから脱却できていないからじゃないでしょうか。
「俺が正しい」と押しつけてしまうから、対話ではなく「こうあるべき」というディスカッションになってしまうんです。自分と他者を相対化して考えるような思考が重要なんです。
以前、弊社の掲げる7つのルールのひとつ「自由主義で行こう」を英語でどう訳すか、というのが社内で問題になりました。
「リベラリズムかな?」「違うだろ!」というような応酬になって、英語に堪能な社員が「こういうことですよね」と作ってくれたのが「Think beyond the norm and take your own initiatives.(既成概念を超えて考えよう。自分達がいいと思うことをやろう)」。
つまり、「自分がいいと思うことをやる」だけでなく、「自分が今立っているモデルは間違っているかもしれない」という前提に立つということなんです。
「毎日出勤しなきゃいけないって誰が決めたんだっけ?」「会社に赤ちゃんを連れて来るのはダメだって、誰が決めたんだっけ?」、その問いに答えられなければ、それは“ノーム”(習慣的な思考、暗黙のルール)の可能性が高い。
習慣的な思考を外すというのは非常に大事で、組織の価値観を浸透させたいと考えている経営者は、自分の習慣を相対化しないと結局のところ自分の思い通りに人を操りたいだけになってしまいます。「『自由な会社』を目指したはずなのに、独裁国家になってしまった」という結果に陥ってしまう可能性だってあるわけです。
組織がスピードを失わないための秘訣
──組織の動くスピードを保つ秘訣というのは、何かありますか?
うちの場合は、やっぱり、チームで経営するということですね。お互いの領域に背中を預け、自分の領域では自律的に動けるよう設定するというか。権限を委譲するだけでなく、相手の領域を尊重するということです。
この時、「無責任にならない権限委譲とは何か」は経営者側が考えるべき命題ですね。例えば、ある人が「やりたい」と言っていることを「好きにやれ」と任せるのが権限委譲ですよね。
ですが、何でもかんでも委譲していたら経営者として無責任です。もちろん、会社にお金を預けてもらっている以上、経営陣がリスクを許容できると考える範囲で権限移譲し、「いい」と思ったことをやるのは大前提なんですが、そうすると経営陣のメンタルモデル以上のものは出てこない。このバランスが難しいんです。
この命題には、一般解が存在しません。なぜなら、自分の性格も、権限移譲する相手の性格も変数として入るので、そもそも特殊解しか有り得ないんです。一般解めいたものが参考になったとしても、結局は自分で経営をし、経験を積んで、自分の性格に合ったスタイルを身につけるしかないと思います。