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2018.09.24 10:00

人の間に入り、寄り添う ささやかな理想形の追求

練馬区議、ウイズタイムハウス代表 加藤木桜子

練馬区議、ウイズタイムハウス代表 加藤木桜子

目まぐるしいスピードで変化し、複雑化する世界。数年前に思い描いた自分の将来像もあっという間に時代遅れになる。自らの本質へと近づく転身とは何か──。


「私の名義で住宅ローンを組んで、建てました」と、今年5月にオープンしたばかりの真新しいシェアハウスでそう説明する加藤木桜子に自宅のことを聞くと、彼女は苦笑した。「私の自宅ですか? この近所の賃貸マンションです」。
 
大学卒業後、高齢者や難病患者のヘルパーとして働いた後、2007年に練馬区議に転身。この5月から新しい肩書ができた。それが、「一般社団法人 ウイズタイムハウス代表」だ。
 
きっかけは1年半前のこと。原発事故で、福島から東京都内に避難していた80代の夫婦が、公営住宅からの退室を迫られた。高齢者が新居を借りることは容易ではなく、選択肢がない。
 
相談をもちかけられた練馬区議の加藤木が、最後に思いついたのがシェアハウスだった。

「不動産屋さんに相談すると、3戸の分譲住宅が予定されていた土地の計画をストップしてくださり、地元の信金にローンの相談までしてくださったんです」
 
思わぬ共感が集まり、「ウイズタイムハウス」が完成。8室2階建ての1階には障害者用の作業所やカフェがつくられ、共有設備は高齢者や障害がある人が利用できる。「月に一度のバザーで、近所のおばあちゃんが『みんなが使ってくれるといいな』と、ものを持ち寄るようになりました。地域の方々にもハウスの中を見てもらっています。ここに来れば楽しいなと思われる場所にしたいですね」。 

区議に立候補するなどこれまでも加藤木は大胆な転身を遂げてきたように見えるが、いまも月に2回はヘルパーに出るなど、生き方は変わっていない。

「デイサービスの仕事をしていた頃、介護保険の範囲が風呂や食事に限定されているので、サービスも限定されていました。高齢者がやりたいことをもっと聞いてあげたいのに、私は納得できないまま介護をしているなと気づいたんです。それで、制度を変える側になろうと、解決策として区議になりました」 

学生時代、福祉の道に進んだのも、人間関係の調整をできたらいいなという思いからだ。「例えば、喧嘩している当人は、双方とも悪気はないので、間で調整してあげれば収まりがつくと思うんです」。 

人の間に入り、寄り添っていく。「同じ時を過ごす」という意味の「ウイズタイムハウス」は、彼女にとってひとつの理想形なのかもしれない。

加藤木桜子の転機

・2005年に社会福祉士の資格を取得。デイサービスなど福祉介護に従事。
・2007年に練馬区議に初当選。介護や福祉の制度を変えたいと政治の道に。現在は3期目。
・2018年に高齢者や障害者が集えるシェアハウスを設立


加藤木桜子◎練馬区議、ウイズタイムハウス代表。1980年生まれ。2003年に慶應義塾大学卒業、NPOなどで勤務。05年に社会福祉士の資格を取得。07年に区議初当選。18年にウイズタイムハウス代表就任。

文=フォーブスジャパン編集部、飯島裕子 写真=小田駿一

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