軽やかで暖かく柔らかい。そして、繊細な繊維が織りなす上質な光沢から「繊維の宝石」と呼ばれるカシミヤ。
歴史をさかのぼると、ナポレオンの妻にして当時のフランス社交界のファッションリーダーだったジョゼフィーヌもカシミヤのショールを愛用していたという。
時空を超えてファッショニスタたちを魅了する極上の繊維。その肌触りはいかにして生まれるのか──。実は、その背景には壮大な時間と手間をかけた物語がある。そして、それこそがカシミヤが「繊維の宝石」といわれるゆえんでもあるのだ。
カシミヤ誕生までの壮大な物語
カシミヤは山羊の一種で、インド北部のカシミール地方を原産とし、内陸部のモンゴルやイランなどの峻厳な山岳地帯に生息する。生息地は非常に厳しい自然環境にあり、例えば内陸部のモンゴルであれば、年間の寒暖差70℃(35℃〜−35℃)、年間降雨量100〜200mmという牧草も生育しにくい乾燥地帯。そんななかで遊牧民たちによって放牧されている。寒く厳しい環境に暮らすカシミヤは、その身を順応させるかのように二重の層のフリースを生やす。外側の粗い毛の層が、内側の細く柔らかなアンダーフリースを保護することで、効率的な保温効果を発揮し、厳冬の寒さを防ぐのだ。そして、このアンダーフリースこそが、類いまれなる自然の恵み、「繊維の宝石」となるのである。
しかし、アンダーフリースを採取できるのは、春の毛の生え替わりの時期のみ。その期間はわずか1週間ほどしかない。クシで梳いて集め、1頭のカシミヤから採れるアンダーフリースは150〜200g。コート1着につき、7〜8頭分の1年間の産毛量が必要という計算になる。
カシミヤの極上の品質を保つためには、厳しい気候と険しい地形、極限の自然という3つの要素に加え、生産者のたゆまぬ努力、情熱や技術が必要なのだ。
さらなるエクセレンスを求めて
この希少な「繊維の宝石」にさらなるエクセレンスを求めたのが、ピエール・ルイジ ロロ・ピアーナだった。彼はこの繊細な繊維のさらなる高みを追求し、比類なきカシミヤをつくるために社をあげて情熱を傾けたのだ。開発に費やした年月は10年。そして、あらゆる形の自然への敬意、時空を超えて最高を求め続けるたゆまぬ努力のたまものとして、「ベビー・カシミヤ」は誕生することとなる。産量は、毎年わずか 2000kg。しかし、その繊維は、これまでに経験したことのない柔らかさを実現し、肌触りや弾力性、耐久性においても比類なき素材へと変貌を遂げていた。
ロロ・ピアーナの原料に対する徹底したこだわりは、ヨーロッパ最大のカシミヤメーカーが扱う量としては驚くほど少ないこの2000kgという数字によく表れている。主たる要因は、アンダーフリースの採取を子山羊が1歳を迎える前の6月に限ったことだった。それはつまり、山羊が成獣へと成長する過程で保護層が自然に抜け落ちるタイミングであると同時に、一生に一度の機会ということになる。ゆえに子山羊1頭につき 通常の成獣における1回の採取量の5分の1にも満たない30gしか採取できない。しかし、だからこそ、その繊維の太さは成獣の繊維より15%も細い、たった 13.5 ミクロンなのだ。
この極上中の極上といえる繊細な繊維は、北イタリアのクアローナとロッカピエトラの同社の工場で、職人による複雑な染色技術と紡績技術で加工され、類いまれな柔らかさと細さが保たれつつ、製品へと織られていく。
その哲学をまとう喜び
ロロ・ピアーナは、美しくも生命力溢れる山羊たちに最大の敬意を払いつつ、その繊維を守る取り組みも続けている。内モンゴル自治区でカシミヤの特別な採取方法を導入し、さらに細く柔らかい繊維を目指して現地の牧場とともに新たな可能性を模索しているのだ。何よりも大切にしているのは地域の伝統や自然を尊重し、持続可能なビジネスをすること。そうして築かれた強いパートナーシップによって、「ベビー・カシミヤ」の品質は保たれている。
悠久の時間、深遠なる自然の恵み、そして、情熱を注ぐ人と人とのつながりが織りなすロロ・ピアーナの矜持。「ベビー・カシミヤ」はもはや単なる贅を尽くした高級品ではない。その価値を知るものを、よりエレガンスに輝かせてくれる衣服といえるだろう。
重ね着で重くなりがちな冬の装いを軽やかにしてくれる「ベビー・カシミヤ」のニットやコート。もしあなたが精神的な豊かさをも衣服に求めるならば、ワードローブに1着、ぜひ用意しておきたいものだ。
・ベビー・カシミヤ・ボンバー 素材:ベビー・カシミヤ100% 価格:¥366,000
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