大人になってから世界に出て、バルセロナのコロンブス像、ジェノバのコロンブス像、そしてニューヨークのコロンブス像を見たときは、彼のルーツに触れた気持ちになり非常に感動したものです。
コロンブスはアメリカ大陸を発見した(ここには様々な意見がありますが)ということで、アメリカの一つの象徴とされていますが、食を仕事にする僕は、コロンブスが新大陸を発見したことで、世界の食シーンに大きな変化が起きたのではないかと思っています。
トマト、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、トウガラシ、ピーナッツ……現在の食卓に登場する食材のほとんどが、15世紀後半のアメリカ大陸発見以降に世界中に広まり、それを機に食の均一化が始まっていきました。
トマトはイタリアの飢餓を救ったこともあり、ポモドーロ(黄金のリンゴ)として賞賛され、ジャガイモは17〜18世紀のヨーロッパの飢餓を救ったことで、フランスではポムドテール(大地のリンゴ)として愛されています。一方で、19世紀のアイルランドではジャガイモに依存し、油断したために飢饉が起きたこともありました。
トウモロコシは、北イタリアなどの非常に寒い山岳地帯を中心に肥沃な大地に食料として広まり、現在は代替バイオエネルギーとしても注目されています。
そしてトウガラシは、インドのカレー、中国の中華料理、イタリア料理のパスタなど世界中に広がっていますが、これもはじまりはコロンブスの新大陸発見です。日本では「唐辛子」の字の如く、唐の方向から、フランシスコザビエルによって運ばれてきた食材の一つとして知られています。
ニースと原宿のお店で出すセビーチェ。新大陸発見で欧州に広がった野菜にちなんで「コロンブス交換」という名づけています
味覚を麻痺させる街
ところで僕は、今年の夏休みにアメリカ・ニューヨークへ行ってきました。今回もまたコロンブス像に挨拶をして、ある夜バーに入ると、面白い発見がありました。
まず、牡蠣を注文すると、ケチャップ、タバスコ、レフォール(西洋ワサビ)の3種の調味料と一緒に提供されました。亜鉛を多く含む牡蠣は、舌の上の細胞である味蕾を育てることで知られていますが、その薬味にはレモン(酸味)、エシャロット(うま味)、ビネガー(酸味&旨味)が添えられることが一般的です。
ところがニューヨークでは、刺激の強いタバスコとレフォールと出てきた。とても驚くと同時に、実際に食べてみて、その辛味が生むある効果に気づきました。
料理には基本五味(甘、塩、苦、酸、旨)があり、僕は塩や糖など脳が好むご褒美的な味を「アッパー系」、苦味や酸味やうま味で身体が落ち着く味を「ダウナー系」と呼んでいますが、この五味以外に、人間が舌で感じられる味に辛味や渋味があります。
しかしこの牡蠣を口にしたとき、その辛味や渋味は感じられなかった。なぜならそれらは刺激として口内や舌を「麻痺」させていたからです。