地球での失敗を教訓に
私たちは地球上で、輸送システムを確立する際に多くの間違いを犯してきた。例えば、環境や人間の健康に交通が及ぼす影響を考慮しなかった。また、社会経済的な分断を拡大するような形でそのシステムを開発してきた。宇宙での輸送システムの構築は、こうした過ちを踏まえた上で行われるべきだ。
また、輸送とモビリティの倫理的な側面に配慮しなければ、宇宙旅行は超富裕層だけのためのものにとどまる危険性がある。前澤と彼が招くアーティストたちを月に送るために使われるリソースは、限られた人たちではなく多くの人が月に旅行することを可能にするためのインフラ整備の推進に向けた研究に充てることもできただろう。
地球上にも、プライベートジェットやスーパーヨットのように超富裕層だけが利用できる交通手段はある。だが、宇宙旅行は今後、数十年、数世紀にわたって私たち全てに影響を及ぼす可能性があるものだ。人類が地球の大気圏を超えた場所に移住しようとするのであれば、そのための取り組みが確実に、「私」でなく「私たち」のために行われることが重要だ。
発展した社会は、誰もが利用可能なインフラによって機能し、繁栄する。誰もが道路を使うことができ、オンラインで商品を注文したり情報を入手したりすることができ、清潔な水を使うことができる。あって当然のように思われることも多いこうしたことが、社会と経済の発展を可能にし、持続させているのだ。