ビジネス

2018.09.29

メジャーで愛される日本人グローブデザイナーと忘れられない戦い

ウィルソン スポーティンググッズ社のグローブデザイナー 麻生茂明氏(左)とアストロズのホセ・アルトゥーベ選手

今年5月、約5年間住んだシカゴから帰国した。シカゴでは、大好きな野球を通じて多くの出会いと別れがあったが、ひとり、どうしても紹介したい人物がいる。

ウィルソン スポーティンググッズ社の麻生茂明氏。2007年にニューズウィーク誌の「世界が尊敬する日本人100人」にも選出された、世界を代表するグローブデザイナーだ。

麻生氏はキャンプ地などでメジャーリーガーに会い、彼らのプレーを自分の目で確かめ、使用しているグローブに触れ、生の声を聞き出し、癖を見抜き、自ら得た情報に基づいて、選手個々人にとって最良なグローブをデザインする。それを的確に工場に伝え、できあがったグローブをそれぞれの特性や癖に応じて型付けしていく。

そうして作られるオーダーメイドのグローブは、それまで使用していたものと全く同じに型付けされ、程よい柔らかさに仕上げられるため、届いたその日から使うことができる。そんな魔法のグローブだ。

外野手の定番グローブ誕生秘話

麻生氏は、初めてデザインを手掛ける選手とは、必ず掌を合わせ、その選手が使っているグローブを見る。それだけでどのようなデザインや型が適しているか分かるという。まさに職人技だ。メジャーリーガーから麻生氏への信頼はとても厚く、これまで数多くのトップクラス選手に提供している。

その一部を紹介すると、カービー・パケット、グレッグ・マダックス、バリー・ボンズ、イヴァン・ロドリゲスなど、守備の達人に与えられる「ゴールドグラブ賞」の常連ばかりだ。中には、ロビンソン・カノ(マリナーズ)のように、麻生氏がデザインしたグローブを求めて、他社からウィルソンに乗り換える選手もいる。

日本人選手では、野茂英雄、青木宣親。変わったところでは、マイケル・ジョーダンなども麻生氏のグローブを使った。

ほかにも、ここでは紹介しきれないほど数多くの選手に向けデザインしたが、今回はその中から、外野手用の定番モデルKP92を紹介したい。

1989年、麻生氏は、エリック・デイビス(元レッズ)に、自らがデザインした外野手用グラブED12を提供したが、デイビスが試合でこれを使うことはなかった。

しかし、なぜかこのグローブがカービー・パケット(元ツインズ)の手に渡り、デイビスに代わりにパケットが使うようになった。パケットはその後3年間使用し、1992年、麻生氏にウェブ(親指と人差し指の間の部分)を改良して欲しいとリクエスト。そうして新しくデザインされたKP92が、のちにウィルソン社の外野手用グローブの定番となった。
次ページ > ファンに愛されたカービー・パケット

文=香里幸広

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事