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2018.09.24 12:00

原作を書いて気づいた、ハリウッドのドラマが隆盛する理由


ハリウッドのストーリーコンサルタントのジョン・トゥルービーによれば、「こうしてテレビドラマ産業は黄金の時代を迎え、映画との兄弟関係が対等、もしくは逆転しつつある」と指摘する。ネットを検索すれば、「映画VSテレビドラマ」という評論は多数出てくるが、その大部分がこの数年のテレビドラマの優位を論じている。

そこには、「市場原理」とはいえ、1人で年に数十億も稼ぐ映画俳優への批判もあるし、いまやハリウッド映画も中国での劇場公開収入をないがしろにできないため、登場人物に「なぜ?」と思うような中国系俳優を起用したりする、手枷足枷への懸念もある。また、マスな市場を意識するあまり、スーパーヒーローものばかりになって退屈だという声もある。

「顧客」の意向に沿う企画を立てる

一方、テレビドラマもこの急速な進化で、「脚本家が製作の司令塔を担っていた時代は終わった」とトゥルービーは指摘する。ケーブルテレビのドラマは、茶の間以上にネットフリックスやアマゾンで視聴される。つまり、劇場公開映画と違い、誰がどこで見ているかという詳細なデータが流通元に残る。そのデータをフルに活用し、需要予測を立て、ネットフリックスやアマゾンが独自にドラマの製作や配給元となっているのが、近年の動きだ。

こうして、原作者や脚本家のクリエイティビティというよりは、製作プロデューサーがいかに「顧客」であるネットフリックスやアマゾンの意向に沿う企画を立てるかということが重要となり、立場が逆転している。この場合、コンテンツのつくり手よりも、「顧客」のほうが市場データを持っているという変わった現象が見られることになる。

とはいえ、製作プロデューサーは、原作者や脚本家に「顧客」から得たデータも見せなければ、方向性も示さない。それを掌中にしたまま、ハリウッドの著名なプロデューサーは、筆者に「あっと言わせてくれる企画を待ち望む」と言明した。

米国でビジネスコンサルタントもやってきた筆者にとっては、市場データをあえて見せず、「顧客」の声も聞かせずに、商品企画を考えさせるという発想は、マーケティングの原則からは乖離し、やはり納得できない。しかし、そこを超えろと言われると、まるでAIと将棋をして勝てと言われているようで、作家としては逆に挑戦の意欲が湧いた。

東京を舞台にした日米の極悪キャラが命を削り合うという渾身の作品は、ボツを食らったが、この経験を通じて、筆者は、ますますこの業界に大きな投資が集まり、進化が継続していくのだろうということを実感した。

もちろん、それは一視聴者としても楽しみが募る。実際、すぐれたドラマのセリフは、洗練という点で、映画をはるかに超えていると思うことがよくある。ドラマが「兄」で、映画が「弟」というような時代が来るのは、もうすぐ先のことかもしれない。

連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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