ビジネス

2018.11.01

創業メンバーが明かす、KDDI参画後の七転八起

左から 山崎大輔、古川健介、森岡康一




大企業ならではの慣習を、いかにして乗り越えていったのか。古川は言う。

「前提として、一流企業と呼ばれるところはどこも綿密に戦略を立てているんですよね。まずは、自分たちがそういうステージに立っていること。それを自覚するところから始めていきました」
 
Supershipは、ビジネスモデルもカルチャーも異なる3社が合併してできた会社だ。それにより規模は大きくなったが、組織としては弱かった。しかし、KDDI基準の「やらざるを得ない仕組み」を乗り越えるために一致団結。組織としての強さが生まれたという。

とはいえ、これまでに社内で衝突が生まれたことは一度もなかったのだろうか。古川は社内の雰囲気についてこう話す。

「僕らはおだやかでしたが、合併によって痛みを感じた社員がいたのは事実です。でも、そこまで大きな衝突が生まれなかった原因として考えられるのは、単純に“いい人”が多い会社なんですよね。『協力し合おう』という意識の人が多いのでバラバラになることはないし、むしろSupershipのカルチャーができつつあります」
 
Supershipではこういった協力し合う文化を「共創」と表現している。実はこの言葉を掲げた背景には、Syn.構想の失敗から得た教訓がある。さらに古川はこう言葉を続ける。

「構想自体は終わってしまいましたが、その思想はまだ残っています。例えば、Syn.構想に取り組んでいたときにフェイスブックやアマゾンと提携するなど『共創』していく土台を築くことができました」
 
スタートアップであるSupershipがフェイスブックやアマゾンをはじめとした世界のエクセレントカンパニーとアライアンスを結んだり、国内では電通やLINEといった企業とアライアンスが結べるのもKDDIとの「共創」という後ろ盾があるからだろう。

「『共創』は同じ規模のスタートアップが一緒になるのではなく、リソースのある大企業とアイデアをもったスタートアップが一緒になっていくこと。こういう『共創』の形が日本らしい」

森岡がこう語るように、同社は9月、アリババに次ぐ中国ナンバー2のEC会社「JD.com」に、Supershipの広告プラットフォームを提供することを発表した。これにより、6.9兆円(18年度)のデジタル広告市場を誇る中国でのビジネス拡大を目指していくという。

「今後、僕らのように大企業のリソースをフル活用して次の時代をつくっていくスタートアップはどんどん誕生していくでしょう。だからこそ、自分たちがいま何ができるのか。これを真剣に考えて、組む相手を見つけること。それが何よりもスタートアップには大切なんだと思います」




森岡康一◎Supershipホールディングス 代表取締役社長CEO。ヤフー、フェイスブックなどを経て、2013年KDDIに入社。新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部 ビジネス統括部担当部長を担当した後、Syn.ホールディングス(現Supershipホールディングス) 代表取締役社長に就任。 2018年10月1日より現職。

古川健介◎Supership シードインキュベートディレクター。2009年6月、ロケットスタート(のちに株式会社nanapiへ社名変更)代表取締役に就任。14年10月にKDDIグループにジョインし、15年のスケールアウト、ビットセラーとの合併によりSupership 取締役に就任。2018年10月1日より現職。

山崎大輔◎Supership取締役/CTO。1998年ヤフー入社後、さまざまな広告機能の開発に従事。その後、スケールアウトを立ち上げる。2015年、スケールアウト、nanapi、ビットセラーの3社合併により現職。

文=田中嘉人 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事