ビジネス

2018.11.01

創業メンバーが明かす、KDDI参画後の七転八起

左から 山崎大輔、古川健介、森岡康一


だが、「失敗」できることは、スタートアップにとって最大のアドバンテージなのではないか。日本のスタートアップの多くは、うまくいくかどうかはさておき、投資家によって「成功」を義務づけられる。結果的に、失敗の少ない小規模のビジネスが氾濫することになる。もちろん、大企業傘下のスタートアップでも、失敗が公然と許されるわけではない。だが、大化けする可能性に懸けてくれるのは、大企業傘下ならではなのではないか。

「それは圧倒的にあります。髙橋さんからは、いまだに『あれ、取り返そうな』と言われてズキッと来るんですが(笑)」
 
すでにSupershipには「Syn.」構想に代わるビジネスが、育ち始めている。いま、森岡が目指すのはデータテクノロジーカンパニーとして、世界と対等に渡り合う会社になることだ。

実際、ここ2年で会社は急成長している。17年度の売上高は約280億円にまで達し、15年度からの2年間でプラス90%の大幅成長を実現している。

なぜ、当初イメージとしていた計画の「失敗」からかくも早く戦略を変更し、次なる事業ドメインに踏み出すことができたのか。古川はこう語る。



「リスク管理や内部統制の経験やスキルのある人がたくさん社内にいるのは大きいですね。彼らがいたおかげで、意思決定のスピードはむしろ速くなったと思います」
 
大企業はPDCAサイクルや意思決定のスピードが遅く、スタートアップと組んでも多くの場合、うまくいかないと言われる。だが、「決してそんなことはない」と古川は強調する。大企業は起こりうるリスクを明確に把握できるので、「損失が起きたとしても、このぐらいの規模でやりましょう」といった意思決定ができるという。
 
山崎は、資金面のメリットを強調する。「KDDIにはグループファイナンスの仕組みがあって、瞬間的にお金を借りることができます。これは経営者として安心できるポイントでした」

スタートアップが大企業の傘下に入ることにはたくさんのメリットがある一方、古川は「うまくいかなかった」と感じた部分もあったという。中でも苦労したのが、詳細な事業計画を作成し、週単位で目標を設定するKDDIの子会社管理方法「マスタープラン」だった。

「理想は100%達成で、上方修正しても下方修正しても、『計画が甘い』と言われてしまう。ボラティリティが大きいビジネスだと大きく外してしまうことが結構あって、キャッチアップに時間がかかりました」
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文=田中嘉人 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN ストーリーを探せ!」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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