我関わる、ゆえに我あり
松井孝典(著)
集英社新書 740円+税/224ページ
まつい たかふみ
◎千葉工業大学惑星探査研究センター所長。東京大学名誉教授。1946年生まれ。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科博士課程修了。専攻は地球惑星物理学。NASA客員研究院、マサチューセッツ工科大学招聘科学者、マックスプランク化学研究所客員教授、東京大学大学院教授を経て、現職。2009年4月より千葉工業大学惑星探査研究センター所長。『松井教授の東大駒場講義録』(集英社新書)、『地球進化論』(岩波書店)、『地球システムの崩壊』(新潮社)など著書多数。
松本 大 マネックス証券代表取締役社長CEO
私は“ビジネス書”を読みません。かつてパラパラと読もうとしたことはありましたが、興味を持続させることができず、結局一冊も読み切ったことがありません。では、本を読まないかというとそうではなく、小説は読みます。詩も読みます。小説は恋愛小説が中心で、随筆やその類いを読むこともありますが、全て叙情的な作品ばかりです。全般に私の読書は極めて偏っています。
なぜ、そういう読書をするのか―。自分で決めているわけではなく興味の赴くままにしているだけなのですが、ビジネス書を読んでも、それぞれのビジネスや組織の置かれた環境は違うし、ある人、あるビジネスにおける知見は、私や私のビジネスには役に立たないとタカをくくっているのでしょう。
恋愛小説や詩を読むのはそれが単に好きだからですが、もしかしたらビジネス書を読むよりも、むしろ“人の心”といった、ビジネスや社会の最小構成要素のあり方を読んだほうが、応用が利くと思っているのかもしれません。
ここ数年に読んだ本の中で、唯一小説以外で私の中に深く入り込んだ一冊があります。いや小説も含めてこの2、3年で一番印象的だったといえます。それが『我関わる、ゆえに我あり』です。
著者の松井孝典先生は惑星物理学者。現在は千葉工業大学惑星探査研究センター所長、東京大学名誉教授です。そのため、本の前半は、科学書的な要素が強いのですが、よく読むとそれは地球と人間の普遍的な構造を解き明かし説明している本であり、科学書というよりは文明論、さらには哲学書に近い内容であることに気付きます。
人間の人間たる普遍的な理由、現生人類と呼ばれるホモ・サピエンスが唯一独特の進化をした要因はどこにあるのか。現在の自然環境、ひいてはあらゆる環境が成立している根本的な理由やプロセスは何なのか。感覚的ではなく科学的に、しかし説明的というよりは抽象的・観念的に解説されていきます。
それは人間や社会の普遍的な法則であり、いわば社会・経済・ビジネスや組織の最小構成要素、すなわち「元素」であるところの人間の普遍的な価値、あるいは価値を持ちうる条件・理由と、全体の社会が超えられない枠のようなものとを、深くかつ克明に考えさせてくれます。宇宙的な極めて俯瞰的な視点で我々を見つめると同時に、例えば言語が我々にとってどれだけ根本的に重要かということもわからせてくれます。
この本はビジネス書ではありません。しかし社会生活をしていく上での普遍的・根源的な法則を教えてくれ、考えさせてくれます。私のビジネスをしていく上での思考回路に一種の革命とぶれない軸を与えてくれた本です。