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シネマの男〜父なき時代のファーザーシップ


感謝祭の前夜に路上でマイケルを発見し、わざわざ夫に車をUターンさせて彼を乗せようとするシーン。夫は車から降りた妻を見ながら子どもたちに、「あれは何かを決めた時の顔だ」と呟く。この一言で、リー・アンの性格とともに、家族が彼女をどう見ているかが伝わってくる。

どこの誰とも知れない体格の良い黒人の少年を、家に連れ帰って泊める。人種差別意識は持たないと自認する人であっても、思い切った決断だろう。リー・アンにとってもそれは同じはずだが、行動に際して彼女はあれこれの迷いを口にしない。

雨の中、薄着で歩いている行き場のない少年にベッドを与えることは正しい行為ではないか、見捨てるのは間違っている。口を真一文字に結び、一瞬真剣に考えるリー・アンの顔つきと、そう思ったら即座に実行に移すさまには、「困っている人を見たら助けること」を子どもの頃から教わってきた、育ちの良い人独特の純粋さがうかがわれる。

これが、「世間知らずの金持ち奥様の無邪気な善意」というウザったい感じにならないのは、ヒロインの頭の良さと勝ち気さが端々に見られるからだ。

「彼が私の人生を変えている」

翌朝黙って出て行こうとするマイケルを呼び止めて話を聞き、彼の育った貧民街にBMWで乗り付けて事情を確認してから、さっさと頭を切り替えて服を買いに連れて行く。高級店ではなくマイケルの地元の店に行くのは相手を尊重している証だし、短く的確なアドバイスをした後は本人の選択に任せるあたりも、距離感がわかっているという感じだ。

引き取ると決めてからはマイケルの部屋を用意したり、クリスマスカードの家族撮影に彼を入れたりと、彼が家族の一員であることを自覚できるようにどんどん行動するリー・アンだが、子どもたちが大好きな絵本を「あなたも読んでもらった?」とマイケルに尋ねてしまうのは、裕福な白人だけに、やはり貧困に対する想像力の足りないところがあるのだなとも感じる。

一方、金持ちママ友とのランチで、黒人への偏見を隠さない相手を歯に衣着せず痛烈に批判する場面は、見ていて胸がすく。「あなたが彼の人生を変えてあげてる」との言葉に、「彼が私の人生を変えているの」と返すリー・アン。自分の立場と振る舞いを客観的に見つめられる賢さが滲む。

里親になるにあたってマイケルの実母を探し出し、言葉を選びながらやりとりするシーンには、思慮深さと控えめな優しさが、家庭教師に雇ったスー夫人が「民主党支持」をカムアウトしたのをビジネスライクに呑み込み、良い関係を築こうと努力する態度には、無駄なことで悩まないという合理主義者の顔が見える。

整えられた環境の中でマイケルの成績も上がり始めたが、彼の資質を見極めたいと考えたリー・アンは、職業適正テストを受けさせ、種々の能力の中で保護本能の一点だけが飛び抜けていることを知る。

文=大野左紀子

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