若い世代は“できない理由”を探さない 送電ルートを「ドローンハイウェイ」に電力会社が張り巡らす送電ルートが、ドローンの飛び交う“空の道”に変わる。物流にとどまらない、さまざまなビジネスプランが「NexGen」で湧き出した。
写真=小田駿一
CASE 2 TEPCO Ventures テプコ ベンチャーズ
今年7月に発足した「東京電力ベンチャーズ」(TEPCOベンチャーズ)は、その名のとおり、電力大手の東京電力ホールディングス傘下で新規事業を創出するベンチャーだ。グループの持つ経営資源を活かしつつ、国内外の異業種企業とも連携して事業開発を進めており、電力供給を安定化させる蓄電池ソリューションや電線を通信に利用する高速PLC、ビーコン(無線標識)を用いた見守りサービスなど、事業は幅広い。
ドローンの活用もそのひとつ。ドローンは総計1万5000kmに及ぶ高圧送電ルートの点検のために東電グループ内で導入が検討されてきたが、鉄塔で結ばれる高圧線の周辺は、飛行の障害が少なく、“空の道”にもなりうる。そのため、地図大手のゼンリンと提携してビジネス化に乗り出しており、東京電力ベンチャーズは7月、まず物流分野での取り組みとして、楽天も加えた3社で弁当を“ドローン宅配”する実証実験を成功させている。
NexGenへの参加も「ドローンハイウェイ」構想を引っさげてのものだった。「物流以外の使い道も、もっとあるはず。若い世代が国内だけではなく海外からも参加する場でなら、斬新なアイデアが得られるんじゃないか」
それがNexGenへの大きな期待のひとつだったと、東京電力ベンチャーズの代表、赤塚新司は明かす。
開幕したNexGenではドローンハイウェイに、東京でもシンガポールでも各国の学生たちの強い関心が集中。両会場でのディスカッションや東京電力ベンチャーズでのインターン実習などを通じて斬新なビジネスプランが数多く生み出された。
「ドローンのレースや、ドローンに搭載されたカメラの映像を配信するバーチャル観光といったアイデアに触れ、自分たちに遊び心が不足していることを痛感しました。何か思いついても“できない理由”を探してしまいがちですが、学生さんたちは違った」
赤塚によると、東京電力ベンチャーズがNexGenに寄せていた期待は他にもある。
「電力会社は保守的というイメージを持たれがち。そこで新しいことをやろうとしているのが私たちです。NexGenで『東京電力が新しいビジネスをしていること』を知ってほしかった。今後もインターンシップの受け入れや大学発ベンチャーとの協業など、学生がチャレンジする機会を設けたいですね」
このミッションが達成されたことは、ドローンハイウェイが学生たちの間で人気のテーマとなったことからも明らかだ。
TEPCOベンチャーズ
旧東京電力が2013年、社長直属で社内に発足させた「新成長タスクフォース」が前身。今年7月、東電ホールディングスの子会社に昇格し、「次世代ユーティリティ」に向けた変革と「新しい社会インフラ」の創出に取り組む。
赤塚新司◎東京電力ベンチャーズ代表取締役社長。東京電力入社以降、揚水発電所建設に従事。新事業開発部門にて人財ビジネス会社を設立。2018年より新成長タスクフォースを東京電力ベンチャーズにスピンオフ。