築地と言えば、マグロのセリが有名だが、もちろん他にもセリは行われている。
早朝5時にはウニのセリがある。セリ場に隣接する冷蔵室には、整然と並んだ膨大な数のウニの箱が鎮座する。この日のウニの最高値は1箱6万円だ。エビ専用のセリ場では、木製のセリ用ひな壇が備え付けられており、重厚な築地の歴史を物語っている。
「海が劣化したせいだ」
5時半をまわると、いよいよマグロのセリが始まる。生マグロと冷凍マグロの部屋があり、生マグロのセリが終わると、冷凍マグロがセリにかかるので、関係者が「民族の大移動」の如く動きだす。どちらの部屋でもいくつもの円陣がつくられ、グループごとにセリ人が朗々と唄うようにセリ上げていく。
ロープを張った向こう側では、観光客が鈴なりになって見学しているが、豊洲では見学室が設置されることとなり、このように間近で見ることはできなくなる。筆者は臼井氏に連れられ、クロマグロの巨体の間を縫って、セリに携わる人たちに話を聞いた。
良いマグロとは口を開けていない頭の小さいもので、尻尾の肉の様子を確かめて、身に脂が乗っているか、縮みがあるか、血合いがないか、などを判断するという。同じ大きさのマグロでも、餌の状態などにより、脂肪のつき方は変わる。「昔と比べるとマグロの質はかなり悪くなった」と仲買人のひとりが嘆いていた。海が劣化したせいだと言う。
生マグロは近海で水揚げされたものだが、日本の船のみならず、韓国船籍のラベルがついたものもある。冷凍マグロは遠洋もので、徹底した資源管理が施されている大西洋クロマグロには、1尾ずつ通し番号のタグがつけられ、電子タグのついたものも並ぶ。日本船籍のものでは、臼福本店を含む3社のものが、この水産庁による電子タグで漁獲管理されている。
セリに関わる人たちとターレ(運搬車)が夜明け前の暗闇を行き交う築地の雑然とした風景も、これで見納めである。これからは移転先の豊洲が新しい歴史を築いていくのだ。
日本の水産資源は、このところ世界に類を見ないほど激減している。水産資源の持続可能な利用に向けて、豊洲市場が果たさなければならない役割とは何か。そのヒントを、実は、以前に訪れたバルセロナの市場で見ていた。
バルセロナという街は、スペインの台所と言っても過言ではないだろう。地中海に面し、豊かな食材と優れた流通網に恵まれている。有名なラ・ボケリア(サン・ジュゼップ市場)や、2018年に改装されたサン・アントニ市場といった一般観光客向けの市場もあるが、流通の卸売市場はメルカバーナという巨大市場である。