──困難な局面を乗り越えられたのは幸運だったからとのことですが、「行動力が強かったから」とも言えるのではないかと思います。確度の高かった取引先候補がダメになっても、諦めずにお断りした会社の方に出向くような執念の強さが肝だったのではないでしょうか。
そうかもしれませんね。例えばあの時、頼みの綱の1社にも断られていたとしたら、また別のビジネスモデルを考えて、それが爆発的にヒットしていた可能性だってある訳です。なので、「とにかく生きていて、執念さえあれば何とかなる」という気持ちでやっていれば上手くいく気がします。
「本物の情熱」というガソリンを持っているか
──商社・金融出身にもかかわらず、データベースやメディアといったいわば畑違いのビジネスを立ち上げて成功されていますが、事業を見極めるポイントはどこにあるんでしょうか?
専門知識を持っていないからこそ、「こんなモノがあったらいいよね」という本源的な価値に素直に目を向けることができます。
後は先ほどお話しした3つ素養に加えて、情熱や執念というガソリンさえあれば、どんな事業でも動くと思います。
なので事業を見極める際には、やりたいと言う人が「本物の情熱を持っているか」で見極めています。経営なので最終的には理で詰めていくんですが、一番大事なラストのワンピースは「誰がやるか」で、その人がいかに本物の情熱を持っているかを見極めることが鍵です。
NewsPicksの記事でも取り上げられた、Indeed CEO・出木場久征氏のエピソードはまさにその好例です。
2012年、株式会社リクルートに在籍していた出木場氏が求人検索サービス「Indeed」を約1000億円で買収する案を取締役会に出した時、居並ぶ役員の中には当然慎重論がありました。
しかし、最終的に峰岸真澄社長との「出木場、お前が行くんだよな?」「はい、私が行きます」というやりとりを経て案が通った、というものです。
見極める際に問題になるのは、本物の情熱が推進者にあるかは事前に見極められないということですが、そういう時には「試してみる」ということが大事です。
──「試してみる」とおっしゃいますと。
「これが一番いいんじゃないか」と自分達の中で心惹かれるものを試してみる、ということです。そうすると本物の情熱かどうかが分かります。
スキーを滑ったこともないのに、スキー選手になるかどうかなんて決められないですよね。ですから、たとえ無駄撃ちになったとしても、マネージャブルな範囲のリスクであれば、試す方に賭ける。
逆に言うと、少しぐらい反対意見があるのに引っ込めるようでは情熱が不足しているので、ガバナンスは強い方がいいんですよね。
──情熱の強度を見るためにも、ガバナンスが強い方がいいと。
構想初期のガバナンスはダメですよ。
初期段階でいきなり「市場規模ってどうなの?」などと言われると、潰されてしまうだけなので。でも、実際にお金を投資する前のガバナンスは強い方がいいです。
出木場さんのエピソードは、反対した役員は見る目が無かったと若い人は言うかもしれません。しかし、慎重論があったからこそ事業をやりたい人に説明責任を強く求めて情熱の見極めが出来た。推進者とガバナンス双方が機能して初めていいものが生まれるのだと思います。