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2018.09.18

ユーザベースが畑違いのビジネスを成功させた秘訣とは何か?|新野良介

ユーザベース代表取締役 新野良介

「経済情報で、世界をかえる」をミッションに掲げ、企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」を提供しているユーザベース。2008年創業のベンチャー企業でありながら、2013年に上海・香港・シンガポールに拠点を開設し、2016年にはスリランカにリサーチ拠点を開設。

翌年、2017年にはNewsPicksの米国進出に伴い、Dow Jones社との合弁会社をニューヨークに設立するなど、グローバルでアナリストや編集者、公認会計士など多種多様なプロフェッショナルが集まる会社としても名を轟かせている。同社の取締役・新野良介氏に起業家の素養や組織づくりの秘訣などについてドリームインキュベータ小縣が聞いた(全7話:第1回第2回) 。※本記事は2017年7月21日に実施したインタビュー内容を基に作成しております。

「三人寄れば文殊の知恵」で世界を変える

──3名で共同創業に至った経緯をお教えください。

ユーザベースは私と共同代表である稲垣、もう一人の共同代表である梅田の3人で立ち上げました。

最初、全員がそれぞれ「一人じゃソニーの盛田さんのようにはなれないよなあ。でも、3人で力を合わせればもうちょっといけるんじゃないか?」と思って共同創業に至った、という感じですね。「三人寄れば文殊の知恵」の考えが3人に共通していたとも言えます。

では共同経営が上手くいくための秘訣というのは、振り返ってみると「運」ですね。何がラッキーだったかというと「共通の価値観があった」、言い換えれば「『何をかっこいいと思うか』が似ていた」ということだと思います。

例えば、先日社内にテントが設置されていました。「お客様がいらっしゃった時に恥ずかしいんですが……」なんて声が社内で上がっていたんですが、私自身は「テントって最高だな」と思ったんですよ。

どんどん人が増えて、どうしても徹夜しなければいけない時に寝る場所がない、困ったな、と考えていたところにテントの出現。プライバシーも守れるし、冬だって寒くないですし、良いじゃないですか。なにが恥ずかしいのかわからなかった(笑)。だって、一生懸命働いているということですから。

この例のように、一般的な感覚から言うと少しネジが外れている部分もあるのかもしれませんが、共同創業の3人は同じようにある程度ネジが外れていて、その外れ具合が似ています。その共通項を持っていたのは「運」が良かったと思います。

でも、それでは参考にならないと思いますので(笑)。

応用できる最大の秘訣としては、「『何でも疑問を感じたら相手に伝える』を約束事にした」ということが挙げられますね。弊社ではこれを「オープンコミュニケーション・ポリシー」と呼んでいます。

──創業の時からですか?

そうです。私が三井物産に勤務していた時の上司から「人間社会の問題で、コミュニケーションで解決しないものはない」「謙虚であれ」ということを飲む度に叩き込まれました。

確かに、考えてみると夫婦でも友達でも何でも、相手の立場に完全に立てれば問題は起きないんですよね。相手の見ている景色を共有できればできるほどいい訳で、そのためには情報交換の量や頻度を多くするしかない。

何かあったら言ってくるというのは安心感につながりますし、言って来ないなら来ないで「便りのないのはよい知らせ」ですから、自由にやれます。

──ありがとうございます。3人で起業されて、その後どのような壁に直面されましたか?また、どのようにしてそれを乗り越えられましたか?

2008年の4月に起業し、翌年の2009年5月に企業・業界情報プラットフォーム「SPEEDA」を立ち上げたのですが、2008年の後半にリーマンショックが起こりました。最初は主な売り先として金融機関やコンサルティングファームを想定していたので、リーマンショックの影響で市況が一気に冷え込んだんです。

加えて、データ仕入れの方でも問題が生じていました。

「ここにデータを卸してもらわないといけない」というほど、我々のニーズに応えられるデータサプライヤーは2社しかなかったのですが、2社のうち1社の取引成立確度が非常に高かったため、もう1社をこちらからお断りしたんです。

ところが、確度の高かった会社との取引が最後になって役員会で却下されてしまいました。「あとは形式的に役員会にかけるだけです」と言われていて、なけなしのお金で工面した保証金も事前に積んでいたにも関わらずです。

サプライヤーがいなければ事業は成り立ちません。そこでダメ元で、こちらからお断りしたもう1社の方に頭を下げに行きました。

その日の朝に梅田と「今日が勝負だな」「やっぱり坊主にしていかなきゃダメなんじゃないか」「土下座してでも卸してもらわなきゃ」と言い合いながら出向いたのを覚えています。最終的に先方が承諾してくださったので、今があるという訳です。

事業というのは上手くいっていても、いつ何時何があってもおかしくありませんし、リスクの所在が分かったところで前処理が常にできる訳でもありません。

時に、スタートアップであればあるほど、目を瞑って爆弾の横を通らなければいけないことさえあります。爆発すればそれで終わりですし、爆発しなければ通れるわけです。どちらに転ぶかは運ですよね。私達は幸運だったと言えます。
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文=小縣拓馬 提供元=Venture Navi powered by ドリームインキュベータ

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