ビジネス

2018.09.18

ふるさと納税の岐路「お得で釣った人は、また別のお得に釣られる」

平戸市職員の黒瀬啓介


自治体の金稼ぎに付き合わせていないか?

2018年4月から、黒瀬はふるさと納税の担当を外れたが、この制度に対する多くの自治体の向き合い方には危惧の念を抱いているという。

なかでも加熱する返礼品競争について、「お得で釣った人は、また別のお得に釣られる」と黒瀬は語ったが、この言葉は重く響く。現状、自治体側からの情報発信は99%が返礼品の発信になっており、自治体が自ら「モノ」ありきの構図をつくってしまっているという。

「自治体同士で競争を始めると、結果的に地方を安売りしてしまう」と黒瀬は断言する。ふるさと納税は本来、地方の価値を高める事業であるべきであるとの考えから、黒瀬は担当者時代、寄付額を増やすことを最終目的とはしていなかった。目指したのはあくまでも地場産業の活性化だ。

全国の自治体のふるさと納税担当者へ向けたメッセージを求めると、「事業者や生産者を自治体の金稼ぎに付き合わせていないか?」と黒瀬は語気を強くして答えた。

「本当に大切なのは一時的な数字ではなく、未来に何を残せるかどうかということです。ふるさと納税の制度が変わったときや終わったときに、自治体は事業者や生産者を救うことはできない。だからこそ、自治体担当者は事業者や生産者の人生を背負って行動する自覚がなければならない」

地方税法改正案が施行されれば、ふるさと納税は確実に変わる。過度な返礼品競争に終止符が打たれたときに、本来の目的でもある地場産業の活性化はプラスの方向に向くのか。黒瀬のような覚悟でふるさと納税に対し、そして地域の事業者や生産者に対して向き合う職員が、これからも全国に増えていくことを切に願う。

連載 : 公務員イノベーター列伝
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文=加藤年紀

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