「差ではなく、違いが大事です」
中村は開発の要諦をこう語る。
「100メートル走で新記録を出しても、そのうち誰かが破ります。何秒だろうと、それは100メートル走という競技の中の“差”だからです。私たちがつくらなくてはならないのは“違い”です。違いをつくれば、誰も追いつけない」
そもそもオカムラは違いをつくり続けてきた会社だ。戦後、デスクといえば木製が当たり前だった時代に、スチール製を開発して新しい市場をつくった。あまり知られていないが、かつては自動車「ミカサ」を生産したこともある。そのとき開発した純国産のトルクコンバータ技術は他メーカーにも提供されて、日本の自動車産業の発展に大きく寄与した。新しいコンセプトで新市場を創造するのは、創業以来の伝統といえる。
いま中村は国内190カ所の拠点を回り、約1時間半、社員を集めて講話を続けている。現在の役員で創業者のことを知っているのは中村だけになった。創業以来の精神を伝える“語りべ”として、社員に何を語っているのか。改めて問うと、こう答えてくれた。
「世間では不景気だ、需要がないというけれど、需要は自分たちでつくるものだと伝えています。変化を起こせば、需要は生まれる。その意味で、需要は無限です」
実際に新たな需要を生み出したのが、天板が電動で昇降して、立ったままの姿勢でも執務ができるデスク「Swift」だ。仕事は座ってするものという常識を打ち破った革新的な商品で、「健康経営」というトレンドとマッチして、ヒット商品になった。
「新しい付加価値をつければ、いままで使っていたものを捨ててでも新しいものに買い替えてくれる」
そう言って笑う中村。次の一手が楽しみだ。
なかむら・まさゆき◎早稲田大学理工学部卒業後、1973年岡村製作所(現・オカムラ)入社。78年設計施工管理部長、85年経営企画部長。開発本部長時代に開発した木金混合デスクがヒット商品に。96年取締役、2007年専務取締役を経て、12年6月より現職。東京都出身、67歳。