それだけでは足りない、「データドリブン」スキルのその先

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身近なビジネスやメディアの世界では、顧客購買数やアクセス数を獲得するために、すでに他機関が出したデータを使用し、とくにコミュニケーションの段階でデータの偏った使い方が見られます。

たとえば、「今年の犯罪件数は過去最悪」など、 ヘッドラインにインパクトのあるタイトルを使うことで、本来のデータが意味することを必要以上に誇張し、偏った情報で読み手に誤解を与えてしまうことがあります。

こういった悪意はないけれども“ノイズ”を含んだ情報は、正しく本質を読み解くことの邪魔をしています。データは、本質的に客観的であるはずですが、当事者やそれを取り巻く利害関係者にとって都合の良いストーリーへと誘導されてしまう危険性があります。

データの奥に潜むノイズ

その結果として、利益を享受する側とそうでない側とが存在するという現象が起きています。データへのアクセスが容易になった現在、誰もがデータを恣意的に使う頻度も増え、事業主は自分たちの実証結果はデータドリブンな結論だと主張できてしまう、“ノイズ”にあふれた社会になってしまっているとも言えます。

このような社会では、データドリブンのスキルを身につけて対処するだけでは十分ではありません。プログラミングなど、データにまつわるハードスキルの習得も大切ですが、データの奥に潜んだ“ノイズ”を探知する(因果関係や主張の正当性、さまざまな利害関係者、組織の利益、バイアスを見分ける)ソフトスキルも駆使し、 データインフォームドになることが重要です。

ミネルバ大学大学院のMaster of Science in Decision Analytics(意思決定分析修士コース)では、データインフォームドな意思決定を導くスキルを養うため、全基礎科目の4つのうち、データサイエンスの基礎に特化した科目(データ抽出、加工など)は1つしかなく、残りの3つはソフトスキルの習得にじっくり取り組むことにフォーカスされています。

主にデータインフォームドな意思決定につながるソフトスキルは下記のような内容を学んでいます。

・行動経済学や心理学に基づいた心理バイアスを探知する方法
・仮説を検証するサイエンスのメソッド
・複雑系システムのなかでの課題設定、解決アプローチ方法
・既存の常識やバイアスに惑わされないクリエイティブな思考法、問題解決方法、他者と協働するスキル
・研究テーマに沿った的確で倫理的なリサーチのデザイン、データの使用を通し結論へ導くまでの実践

私自身、当初は専門的なハードスキルを身につけたいとデータサイエンス専門の大学院への進学を検討しましたが、結果的にソフトスキルにフォーカスしたミネルバのコースを受けたことで、長く通用するスキルに目覚められたと実感しています。

ビッグデータが導き出す“ストーリー”が、既存の利害関係者に誘導されたままでは、人類や社会の発展は生まれにくいでしょう。ビッグデータが持つ本来の客観性を引き出し、これまで見えてこなかったインサイトを得るには、社会の流動的なコンテクストに合わせデータ分析の目的を設定し、バイアスに惑わされず、倫理的にデータを使用する、データインフォームドな人材が必要なのではないでしょうか。

連載:未来の大学で出会った「新しい学びのかたち」
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文=橋本智恵

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