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侍、忍者、かぶき者、町娘に扮した観光客で賑わう「EDO WONDERLAND 日光江戸村」は、和の魅力を地方から世界に発信する重要な拠点として注目を集めている。このカルチャーパークを運営する時代村代表取締役ユキリョウイチに話を聞いた。

上写真左:ユキリョウイチ◎1972年、東京都生まれ。大学卒業後、世界のさまざまな国を旅して20代を過ごす。その後、稼業の日光江戸村に戻り、カルチャーパーク・EDO WONDERLAND 日光江戸村をつくり上げる。2011年、時代村代表取締役に就任。現在に至る。上写真右上:大人気の江戸職業体験。忍者、新撰組、捕物に扮した子どもたちが江戸の町を巡る。上写真右下:写真は浮世絵摺り体験。ほかにもさまざまな江戸文化のワークショップがある。


「20代の頃、私にはディープな歴史的背景をもつ海外の人たちとの交流を求めて、世界中を旅した時期がありました。振り返ると、日本人としてのアイデンティティが自分に備わっていなければ、濃密な時を過ごすことはできなかっただろうと思えます。例えば、ケルト人は自然を崇拝し、日本人と同じように万物に神を見る民族です。自分が生まれた国の成り立ちを説明できなければ、彼らと有意なコミュニケーションを図ることは難しかったでしょう。この時期に経験したことは、先代から事業を継承していくうえで非常に役立ちました」

こう語るのは、時代村代表取締役のユキリョウイチ。日本経済が低迷にあえぐ2003年に、「日光江戸村」の後継として経営を引き継ぎ、実父である先代が掲げた地方創生の理念を踏襲しながらも大きな改革に着手する。

「10年後、20年後の日本社会に思いを巡らせたとき、『日光江戸村』というアミューズメントパークでは、いずれ立ち行かなくなると感じていました。日本人だけでなく、外国からの観光客と価値観を共有するには、日本史の中で残された美徳、風習、技術を集結し、よりリアルな江戸を体感してもらう必要がある。特に欧米の人々は、アトラクションの面白さばかりでなく、施設そのもののクオリティを重視します。日本が誇る江戸の魅力を彼らに伝えるためには、本物の江戸を説明できるカルチャーパークに質的変換していかなければならないと思ったのです」


写真上2つ:目抜き通りを練り歩く水かけ神輿や花魁道中では江戸の生きた息吹を体感できる。/写真下右:日本の味にこだわった食事も魅力のひとつ。/写真下左:江戸職人の手仕事を回廊形式で展示する江戸生活文化伝承館。

観光立国とか、インバウンドといった言葉がまだ浸透していない時期に、ユキは、地方創生とは単に地域社会を潤すことではなく、地方から世界に向けて、いかに“和の魅力”を発信していくかがキーとなると考えていたのだ。この先見性によって、「日光江戸村」は、インターナショナルを意識したカルチャーパーク「EDO WONDERLAND 日光江戸村」として生まれ変わる。

徳川幕府が長い年月を掛けて町づくりを行ったように、桜や松の苗木を育て、山からの豊富な湧水を利用し食べ物をつくり、木造の演舞場を立て、彩り豊かでサステナブルな江戸の町を再現させていく。四季折々の風物や催しを楽しんだ江戸の武士や町民たちと同じように、来場者たちは心地よく街道に響く三味線の音色を感じながら、21世紀に蘇ったEDO(江戸)の食に舌鼓を打ち、芝居を見物し、職人技を学ぶ。

「数年前までは、家族連れや外国人観光客が中心でしたが、最近は大人同士で来場されるケースが増えてきました。こうしたお客様は日頃の競争社会、ネット依存の生活スタイルのストレスを癒やすように、自然の中に自らの心身を溶け込ませて、ゆったりと流れる時間を過ごしているようです。そういう意味で、ここは、デジタルデトックスにも適した環境なのかもしれません」

インバウンドビジネスに必要な “日本の心”

際立った戦乱がなかった江戸時代は、約260年の歳月の中で武家のための文化や礼法が町人にも広がっていった歴史的一面がある。自由闊達な庶民文化が片方で品格を感じさせるのは、この時代の独特な美意識が町人にも浸透していたからだろう。

「江戸の文化を語る上で欠かせないのが、小笠原流礼法です。鎌倉時代から現在まで一子相伝で受け継がれてきたこの作法は、余計なものを削ぎ落としたシンプルで無理のない身体動作に美を求めるもので、本来は武家のための所作でした。それが江戸時代に町人に広まったことで、彼らはお茶の出し方、紐の結び方ひとつとっても色っぽい動きを身につけようとしたのです。これが江戸人の『粋』な心掛けにつながっていったのだと考えます。私自身、小笠原流礼法には敬服していて、ご宗家の協力を得て、社員研修に採り入れました。正しい体の使い方を知らない現代の人には難解で、当社の社員も習得するのに苦労しています。それでも、来場者の方には、このテーマパークで働く商人や花魁、役者たちのちょっとした動作から“日本の心”を感じ取ってもらいたいのです」

江戸の暮らしから学べるビジネス、生き方のヒント

「EDO WONDERLAND 日光江戸村」から、“本物の日本”を世界に広めていこうというユキの取り組みには、共鳴する者が続々と集まっている。

「以前に行った、地元の子どもたちに桜の木のオーナーになってもらうという試みがたいへん好評でした。ゲストとして参加してくれたC・W・ニコルさんと子どもたちがEDO WONDERLANDに桜の木を植えて、それに自分の名前を付けるという企画です。桜の木の寿命は40年ほどですから、子どもたちが大人になったときには、満開の桜が咲く。子どもたちにも日本の文化を伝えていく役割を担ってほしいという思いから生まれたアイデアです。インバウンドビシネスで成功を収めるには、自国の自然や文化を正しく伝えることが要求されます。日本人にしかつくれないビジネスモデルを生むためには、何より私たちがいまも残されている伝統文化に心を寄せなければなりません。そのためには、同じ価値観を共有できる人同士、企業同士がつながっていくことも重要です。次世代型のネットワークの拠点のひとつとして、この場所が貢献できれば、これほど嬉しいことはありません」

自分の生き方に迷いが生じたら、過去の歴史からヒントを探すのはひとつの方法。ビジネスを成功に導くインスピレーションを受けることも可能だ。
「例えば、江戸時代のようなコミュニティとしての信頼が地域社会にあれば、子どもの世話は近隣みんなで見ようという発想が生まれます。つまり子どもを産みやすい社会をつくるための答えが歴史の中にあるのです。あるいはサステナブルな暮らしを求めるならば、何度となく災害に見舞われながらも自然との共存を目指してきた江戸時代の人々の暮らしから答えを見出すことができるでしょう。江戸時代には、いまを生きる人々の課題を解消する答えがたくさんあると私は思っています。この施設のコンセプトである、『EDO IS THE ANSWER』は、私の座右の銘とも呼べるものです」


EDO WONDERLAND 日光江戸村
江戸時代の文化を肌で感じられるカルチャーパーク。広大な敷地には、街道、宿場、商家街、忍者の里、武家屋敷など実物さながらの町並みが再現されている。
住所 栃木県日光市柄倉470-2
電話 0288-77-1777
営業時間 9:00〜17:00(3月20日〜11月30日)/9:30〜16:00(12月1日〜3月19日)/水曜休
http://edowonderland.net

Promoted by 日光江戸村 text by Hiroshi Shinohara photograph by Shunji Goto edit by Akio Takashiro

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