温暖化で注目、イギリスが「第2のシャンパーニュ地方」になる日

ハイ・クランドンのスパークリングワイン


ハイ・クランドンが戦略的に優れているのは、ワイナリーツアーにも表れている。美しくセンスの良いワイナリーを巡るツアーは事前予約制。イギリス政府観光局がバックアップし、質の良いツアーを行なっているワイナリーに与える賞、IWCセラー・ドア・アワードを、2017年、2018年と2年連続で受賞していることもその評価の高さを裏付けている。

通常ワイン造りは、収穫の時期が一番忙しい一種の“季節仕事”だが、一人15ポンドのツアー料金は、オフシーズンの収入源になる。それだけでなく、ワイナリーツアーを行うことで、雰囲気を含めてワイナリーを気に入ってくれるファンや固定客が育ち、商品をダイレクトに販売できるため、よりサステイナブルな経営ができるというわけだ。

ロンドンからも、海外からも



ハイ・クランドンのスパークリングワインはシビラさんネーミングしているが、特別な席で飲むワインにふさわしいロマンティックな名前もブランドの魅力の一つとなっている。今年リリースされたばかりの2013年のビンテージは、ギリシア神話の楽園の名前「Elysuim(エリジウム、エーリュシオン)」が付けられている。

実際に、ワイナリーは楽園そのものと言えるだろう。ブドウのそばには、土壌を通して香気成分が吸収されると考える「ジオケミストリー」の考え方から、香りのよいバラを植え、ワイナリーに通じるまでの道にはあえて野生の草花を植え、その花から取った蜜は、ワインを絞った後たブドウのかすをさらに蒸留して作るリキュールに、甘みを与えるために加えられている。

またワイナリー内のあちこちには、シビラさんが選んだ地元のアーティストの作品が飾られ、まるで野外美術館のような趣。これらは販売されているが、売り上げの90%はアーティストへ、10%はチャリティに寄付される。



「これら全てによってハイ・クランドンのテロワールができているのです」とシビラさんは言う。小さなワイナリーならではのアットホームなもてなしと、二人の好みが反映された居心地の良い空間は、訪れた人を思わずファンにしてしまうことだろう。

筆者も、ワイナリーを見渡すテーブルで試飲させていただいたが、イギリス郊外ならではの素晴らしい雰囲気を満喫した。ハイ・クランドンのラベルを見る度に、この景色を思い出すに違いない。

ロンドンから50km、車で1時間あまりというアクセスの良さもあり、イギリス国内のみならず、ヨーロッパ各地からも多くの訪問客がやってくるのだという。

「魅力ある」個性を作って、ファンを増やしていく。ブランディングへのこだわりが、安定した経営につながっていると言えるだろう。

文・写真=仲山今日子

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