AIを「人間のコミュニケーションの裏方」に使う最適な方法

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本連載もいよいよ第6回目を迎え、失敗しないAIプロダクト作りをするためのチェックポイント5つめの「感情価値」の説明に入ります。
 
本連載で何度も例に挙げた囲碁のAIには、この観点が入り込む余地はほとんどありません。人間であれ機械であれ、誰が打とうと同じ局面で打たれた同じ手の強さが変わることはないからです。
 
しかし、これが例えば「バーテンダーの会話」をAIで模そうとした場合にはそうはいきません。内容自体は「今日はこのへんでお仕事されていたんですか?」とか「暑い日が続きますね」とか、他愛もないものがほとんどですが誰も知り合いがいない街に初めて出張に行った時でも、良いバーを見つければ少しだけ孤独感がやわらぎます。
 
「バーテンダーとは、愛も希望も失った人間が、最後に話し相手として選ぶ人である」ということを言う人だっているくらいです。
 
おそらくこうした「バーテンダーがよくする会話」をAIでシミュレートして、相手の風貌や返答などから最適なものを返す、というのは現行の技術でも不可能というほどではありません。「何かおすすめを」と言う顧客に対して、カクテルのレシピを推薦したり、実際にお酒やジュースを混ぜてカクテルを用意する、という仕組みだって作れるでしょう。
 
しかし、恐らくそんなものを作ったとしても満たせないニーズは存在します。それが「感情価値」です。
 
つまり、「愛も希望も失った人間」に対して機械が表面上人間と同じことをしたとしても、「孤独感を癒す」という感情価値は提供できないわけです。むしろ「機械相手に話しかけて何やってるんだろう」と、余計に孤独感を覚えるリスクすらあるくらいです。
 
肉体労働や頭脳労働に加えて、感情労働という言葉が生まれるくらい、現代の我々の仕事には多くの感情価値が伴います。「孤独感を癒す」以外にも、「敬意を払ってもらっている」「憤りを受け止めてもらえる」など様々な感情価値が世の中には存在していますが、機械から敬われても、機械に怒りをぶつけても、感情的なニーズは満たされません。
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文=西内啓

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