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2018.10.04 12:00

クレイジーな日本人を増やせ! パリ発「アート思考」の可能性

7月末に東京で行われた3日間のワークショップで登壇した、シルヴァン・ビューロゥ准教授

7月末に東京で行われた3日間のワークショップで登壇した、シルヴァン・ビューロゥ准教授

「いま世の中にある世界的な問題、例えばSDGsのようなものはなかなか解決しない。これだけ多くの人が取り組んでいるのに、解決の兆しもない。最近は、もはや論理的思考では解決できないのではないかという気がしています」

これは、7月20日、あるイベントに登壇したMistletoe創業者、孫泰蔵の発言だ。世界の課題解決をめざすスタートアップを育てるべく起業支援や投資を手がける孫は、この日、HEART CATCH代表の西村真里子が月1で手がけるイベント、「西村真里子のテック&パーティー!」第4回のゲストとして参加していていた。

そして、冒頭の言葉に続けて、「むしろ解決には、偶然のサイドエフェクトが、結果としてすごく有効なのではと考えています。ナナメウエ(out of the box)のアプローチが出来るかどうかが鍵なのです」と、未来に向けて注力すべきことが、課題解決から問いの設定へとシフトしているという論点を共有した。


Mistletoe創業者の孫泰蔵(左)とHEART CATCH代表の西村真里子(右)

自ら問いを作るための「アート思考ワークショップ」

起業家やイノベーターは「よりよい世界を作るための課題解決」に立ち向かう。その取り組みにおいて、常識にとらわれない「out of the box」な発想が大事だというのはよく言われるが、その実践や指導は難しい。

今から10年前、フランスのビジネススクールESCPで起業家プログラムを実施するシルヴァン・ビューロゥ准教授が「アート思考ワークショップ」の取り組みを始めたのは、従来のビジネススクールのやり方に限界を感じていたからだ。

ビジネススクールでは、既存企業のビジネス事例に学ぶ、いわゆるケーススタディーの議論が一般的。しかし既存のケースから、常識を破る発想は生まれない。一方、常識を打ち破り、議論を巻き起こすという手法は、アートの世界ではよく見られる。

例えば、マルセル・デュシャンが1917年に発表した「泉」という作品。セラミック製の男性用小便器に“R.Mutt"という架空の署名が書かれた作品は、ニューヨークの公募展「アンデパンダン展」への応募作品だったが、誰もが参加できるはずの同展に拒否された。

しかし、この作品はアートの定義に関する論争を巻き起こし、後のアンディ・ウォーホルやジェフ・クーンズといったアーティストの活躍にもつながったとビューロゥは説明する。


2012年、スコットランド国立近代美術館で展示されたデュシャンの「泉」(Getty Images)

また、「かわいいクラスメートを検索する」という軽はずみな発想から始まったフェイスブックは、SNS依存やプライバシー問題といった新たな論争を巻き起こしながらも、いまなお世界に変化を起こしている。

こうした論争や対立を起こすような問いの投げかけこそが、現状を変え、世界を変えていくことに繋がる。ビューロゥは、成功している起業家と偉大なアーティストの共通点が、現状にチャレンジし、論争を巻き起こす破壊的な発想(subversive thinking)であると考え、アーティストの友人ピエール・テクティンとともに「Improbable(ありえない)」と称したワークショプを開発、実践しているのだ。
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文=MAKI NAKATA

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