フランスの画家ポール・ゴーギャンが2度目のタヒチ滞在中に描き上げた作品のタイトルだ。画面には人間の誕生と成長、そして死を目前にした晩年が幻想的な筆致で描かれている。観る者の内面にさまざまな思いを喚起させる力を持つこの絵は、紛れもないゴーギャンの最高傑作だ。
なぜこの絵は観る者に訴えかけてくるのか。それはこの絵がまさに人類の究極の問いについて描かれたものであるからに他ならない。
私たちはどこから来て、どこに向かうのか、私たちは何者なのか──。人類(ホモ・サピエンス)の来し方行く末こそ、私たちにとっての最大の謎である。
気鋭の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」は、この究極の問いのうち、「私たちはどこから来たか」を解き明かそうと試みたものだった。
歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ
かつて地球上にはさまざまな人類種が存在したが、なぜホモ・サピエンスだけが生き残ったのか。ハラリはその理由を、7万年前にホモ・サピエンスの脳に起きた「認知革命」に求めた。これによってホモ・サピエンスは、「虚構」を操る力を手に入れたのだ。
この能力によって人類は、言語を獲得し、「神」や「国家」などの概念を生み出した。目に見えないものを崇めたり、自らの身体スケールを遥かに超える大きさの共同体をイメージして、互いに協力したりするようになったのだ。
今よりも豊かな生活や、まだ見ぬフロンティアなどを想像する力を手に入れた人類は、文明を生み出し、イノベーションによって進化のエンジンを加速させ、この星の歴史上、もっとも繁栄する生物となった。「虚構」というコンセプトひとつで人類史をクリアに見通してみせた「サピエンス全史」は、またたくまに評判となり全世界で800万部を超えるベストセラーとなった。
「ホモ・デウス」は、「サピエンス全史」に続く待望の新刊だ。人類の来し方について描いた前作に対して、本作は私たち人類がどこに向かおうとしているかを壮大なスケールで描き出す。ビル・ゲイツやダニエル・カーネマン、カズオ・イシグロらが本書に熱のこもった賛辞を贈っているが、それも当然、「ホモ・デウス」は前作を上回る知的興奮が約束できる傑作なのだ。
ホモ・デウスとは何を指すのか
人類の歴史を振り返ると、飢饉や疫病、戦争によって人々の生存は脅かされてきた。ところがいまやこれらは克服されつつある。もちろんこれらの問題が根絶されたわけではないが、実際には飢饉で死ぬよりも肥満で死ぬ人の方が多く、疫病よりも老化で、戦争よりも自殺で死ぬ人のほうが多いのが現実だ。
ハラリは、この3つの問題を克服しつつある人類は、次のステージに向かうのではないかと見ている。次なるステージで人類が目指すのは、不死と幸福と神性の獲得だ。サピエンスは自らを神(デウス)にアップグレードさせ、ホモ・デウスになるのではないかというのが、本書の予見する未来である。
とはいえ、ピンとこない人のほうが多いだろう。たとえば人類が不死の存在になるなんて、そんなことが本当に可能なのだろうか、と。当然の疑問だろう。
ところがこの動きはもう現実のものとなっているのだ。現代科学の最重要事業は死を打ち負かし、永遠の若さを人間にもたらすことだと考える科学者が増えている。
グーグルは「死を解決すること」をミッションに掲げる子会社を設立しているし、投資ファンドのグーグル・ベンチャーズは生命科学や寿命延長などに取り組むスタートアップに巨額の投資を行なっているという。