AIなのか愛なのか? 食における人工知能の可能性

第2回のメインディッシュは、トルコ料理をベースに「最強のハンバーグ」を用意した


この夏に開催した第4回は、「知性とは何か?」がテーマ。アダムとイブは禁断の果実を食べたことで知恵をつけた、というストーリーからイメージをふくらませてメニューを構成しました。

その果物は、キリスト教ではりんご(ポンム)とされ、イスラムではイチジクだったとされていますが、いずれにしても、糖質が脳を活発にしてくえるから、果物が知性のシンボルなのか……? そんなことを考えながら、黄金のポモドーロと言われ、りんごと同じ言葉のルーツを持つトマトのスープを用意しました。

そして今回は、僕のスペシャリテ2品でFood Galaxyと直接対決。南フランスの伝統的な家庭料理「ラタトゥイユ」と、ニースの人々にわさびを知ってほしくて考案した「牛肉のミルフィーユのわさび風味」を、AIはどうアレンジするのか──。



蓋を開けてみると、ラタトゥイユは「紅茶風味」、牛肉のミルフィーユは「ピーナツバター&醤油」で味つけられ、なかなか面白い驚きがありました。

Food Galaxyがこうしたひらめきを得意とするのは、その背景に、ヴァーシュニー氏がIBM時代に発表した「創造性=新奇さ × 質」というコンセプトがあるからです。ただ僕は、クリエイティブには自分の欲求(want)よりも相手へのケア(care)が大事だと考えていて、特に料理においては、土地に添い家族の健康を考えた“愛がこもったレシピ”を凌駕するのは難しいのではないかと思っています。



ちなみに、第4回では裏テーマとして、ほとんど塩を使用せずに料理しました。下準備でも味付けでも、料理に塩は欠かせないものとなっていますが、「本当に必要なのか?」と常々思っていることへの挑戦です。塩の代わりに、うま味と薬味(スパイスやハーブ)で味を組み合わせたのですが、ゲストの「塩を使ってないとは思えない」という反応を見て少し確証を得ました。

薬味は文字通り“薬”でもあるので、うま味と薬味を組み合わせれば、常習癖のある塩(砂糖も同じ)を抑えると同時に体調管理もすることができて一石二鳥です。最近フランスでは、国民の健康を考え、塩への課税も議論されています。

僕が考える食と人工知能の未来

食を通して過去と未来を繋がなければいけない。だからどこへ行くかより、どこから来たのかを大切にしなければいけない。これが、僕が食を通して大切にしなくてはいけないと感じていることです。

料理はアートでもあるので、伝統や古典、コンテンポラリーなど様々なジャンルがありますが、食事を通して、食材のいろんな側面も咀嚼するところにも重要な意味があります。ただ単純に栄養を得たり、欲求を満たすだけでなく、歴史やアイデンティティという教養を得ることで人はより豊かになるからです。



石川くんとはもともと、医療や栄養の研究者やシェフが集うアメリカのプログラム「Healthy Kitchen, Healthy Lives」に行ってからの関係なので、この取り組みでAIが、“世界の叡智”ともいうべき各地の伝統レシピや食生活の集合知となり、医食同源、予防医学の一助となるべく進化していくことを期待しています。ちなみに第5回は「和の心」をテーマに企画中です。

もちろん治療や医療も大事ですが、核家族化で食卓が分断されてお婆ちゃんの知恵袋を引き継げなくなったり、手間暇かけた味を伝承できなくなったことが、社会の歪みやストレス、現代病の原因になっているというのが僕の考えです。このAIプロジェクトで得た多くの気づきを元に、より一層、予防や未病としての食事の大切さを伝える役割を担えればと思います。

連載:ニース在住のシェフ松嶋啓介の「喰い改めよ!!」
過去記事はこちら>>

文=松嶋啓介

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