AIなのか愛なのか? 食における人工知能の可能性

第2回のメインディッシュは、トルコ料理をベースに「最強のハンバーグ」を用意した

だいぶふざけたタイトルですが、僕は予防医学者の石川善樹くんと一緒に、AIエンジン「Food Galaxy」を使った食のイベントを定期的に開催しています。すでに4回を終えましたが、シェフとしてAIの進化に協力しながら、僕自身、食の原点や生きる意味を見直す機会をいただいています。

Food Galaxyとは、データサイエンティストの風間正弘くんやデザイナーの出雲翔くんらが研究を重ね、IBMのシェフ・ワトソンの開発者であるラヴ・ヴァーシュニー氏と共同で開発しているAI。世界各地から集められたレシピデータを「ベクトル化」し、「食の世界地図」を作っています。

イベントではこれまでに、世界的な有名な日本料理の一つ「すき焼き」をフレンチ風や韓国風にしてみたり、世界一幸福な国と言われるデンマークの料理を作ってみたり、僕の店のスペシャリテを作り替えたりと、いろんな取り組みをして来ました。



AIになかった「うま味」要素

昨年の夏、初めてFood Galaxyによるレシピを渡されたときは、「なんだこの組み合わせは?」と思いながらとりあえず料理しました。そして食べてみると、何かが足りない……。

その原因は、AI自体に「基本五味」という料理で当たり前のデータベースがなく、「基本四味」でレシピを提案していたからでした。だから、味と香りの組み合わせはなんか面白いけれど、どうもいまいち。要するに「UMAMI(うま味)」が欠けていたのです。

それを踏まえた第2回は、香りとうま味にフォーカス。Food Galaxyによると、香りの組み合わせが多いフランス料理とうま味の組み合わせが多い韓国料理は対極にあり、香りもうま味も高レベルを示すのが、世界三大料理のひとつとされるトルコ料理です。



そこでメインディッシュには、AIが提案したレシピで、トルコで「ケフタ」と呼ばれる仔羊をつかったハンバーグを用意しました。トルコ料理は、うま味と香りに加え、スパイスをふんだんに使うのが特徴です。じっくりと熱を加えることで、ジューシーでスパーシーな“最強のハンバーグ”となったのですが、課題も見えました。

AIは面白い組み合わせを見つけてくるし、うま味を知って前回よりも進化したのですが、加減というものができない。火加減にしろ塩加減にしろ、そこでは人間の感覚が重要だということを再認識し、また、うま味と香りとスパイスにより、塩分や糖分を抑えられるという気づきを得ました。

感性やバランスこそ人間力

第3回は、世界で最も幸福な国と言われるデンマーク料理をベースに、「人間にとって快楽とは何か?」というテーマで開催。

石川くんによれば、脳科学の視点から「幸せ」を見ると、砂糖タイプ(Like型)、脂肪タイプ(Want型)、旨みタイプ(Learn型)に分けられるのですが、幸福度No.1の国の料理はどのタイプなのか。そこに幸せのヒントを見出そうと。

その上で、2種類のデンマーク料理を僕とFood Galaxyがぞれぞれ提案。AIは過去2回から学び、酸味と香りの組み合わせなどかなり進化していました。しかし、“解析”はできるけれど“解釈”ができない。例えば「AとCは通常合わないけれど、Eをはさめばおいしくなる」という感性やバランス感。それは人間でしかできないことで、「ぶつからないバランスを考える」ことが幸せの大事な要素である気がしました。
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文=松嶋啓介

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