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シネマの女は最後に微笑む

主演 リース・ウェザースプーン(Photo by Axelle/Bauer-Griffin/FilmMagic)

例年にない猛暑に見舞われた今夏、まだしばらく残暑は続きそうだが、お盆休みの旅行を返上し、今月の連休にレイトサマーを楽しもうと計画している人もいるのでは? 

夏休みも終わり落ち着き始める国内観光地、早くも秋の訪れが感じられるヨーロッパ、南半球の島々はこれから春のバカンスシーズンだ。

レジャー目的ではなく、疲れた心を癒したり、自分を見つめ直すために旅に出る人もいる。旅とは、日常を一時中断し、時間をかけて長距離を移動し、異なる環境に身を置き、まだ見ぬ何かに出会うことだ。旅人でいる間、私たちは日常の些事にはわずらわされず、自由で、ある意味で無責任な立場を貫くことができる。そうした非日常体験を経て、人は多かれ少なかれ変化し、再び日常に帰還する。

今回は旅にちなんで、2014年のアメリカ映画『わたしに会うまでの1600キロ』(原題『Wild』)をチョイスした。原作は、パシフィック・クレスト・トレイル(略してPCT、メキシコ国境からカナダ国境に至るアメリカの長距離自然歩道)を一人でハイクした女性の手記。女優のリース・ウェザースプーンが自ら立ち上げた会社で製作し、主演もつとめている。

なぜ女性一人、難関に挑むのか

日本にも四国八十八箇所巡りのように何カ月もかけて歩く長距離ルートがあるが、PCTは全長4000キロを越え、シェラネバダ山脈などいくつかの山脈を含み、森や砂漠、雪原など道なき道を行かねばならない。テントと寝袋、食糧、燃料は必携で、補給物資は道沿いの町の郵便局などに送ってもらったのを受け取る仕組み。挑戦するハイカーのうち、踏破するのは6割ほどと言われている。


ワシントン州のパシフィック・クレスト・トレイルのルート

主人公のシェリルが歩いたのは全長よりは短いルートだが、それでも女性の脚で数カ月を要する。なぜ彼女はたった一人でその難関に挑もうと思ったのか。

ドラマはシェリルのPCTハイクのプロセスを軸として、時折断片的に過去のシーンが挿入される。過酷な道中、彼女が見た光景からの連想や、ふと頭に浮かんだ想念が、過去のイメージを呼び出すようなかたちだ。

それらは必ずしも時間軸に沿ったものではなく、大人になってからの記憶の後に、子ども時代の思い出が入ってきたりする。つまり、ドラマの因果関係を説明する整理されたストーリーではなく、まさに「苦行」の最中の当人の頭の中にさまざまなイメージが去来するさまを、そのまま映像化しているのだ。

現在と過去のイメージが響き合いながら、次第に欠けていたピースが補完され、ゆっくりと浮かび上がってくるシェリルの半生。この語りの形式によって、シェリルという女性のPCT単独挑戦のモチベーションと、その中での彼女の変化を、観る者がよりリアルに受け取ることのできる流れが作られている。

PCTの道程は、シェリルの人生そのものを暗示している。これが彼女にとって一つの「生き直し」となっていることは、さまざまなシーンから読み取ることができる。

小さなホテルから旅立つシェリルの背中にあるのは、一人で担ぎ上げるのがやっとの異様に大きなバックパック。抱え込んでいるものが重過ぎて、足下もおぼつかない。

文=大野左紀子

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