戦略的に重要なインド洋の航路は従来、中東とアフリカ、そしてアフリカとアジアの貿易の促進に重要な役割を果たしてきた。さらに近年は、長期に及ぶ中国の経済発展に伴い、一段とその重要性を高めてきた。
スリランカは昨年7月、中国から15億ドル(約1665億円)の融資を受けて建設した南部にある深海港、ハンバントタ港の99年間の使用権を中国の国有企業、招商局港口に11億2000万ドルで譲渡することに合意。すでにこのうち、5億8400万ドルを受け取っている。譲渡によってスリランカ側が受け取る11億2000万ドルは、中国への負債返済に充てられる。
スリランカで内戦が続いていた2007年、中国政府は反政府武装勢力「タミルイーラム解放のトラ(LTTE)」と戦っていたマヒンダ・ラジャパクサ大統領(当時)率いる政府軍に対し、大規模な援助を開始した。そして、中国はその後も同国に高金利での融資を行うほか、大型建設プロジェクトを受注するなどしてきた。スリランカの対中債務は、巨額に膨れ上がっている。
世界各国・地域の経済関連データを提供するトレーディング・エコノミクスによると、スリランカの対外債務残高の対国内総生産(GDP)比は昨年、1950~2017年の平均(69.69%)を大幅に上回る77.6%に達した。昨年の財政赤字の対GDP比はマイナス5.5%。経常赤字の対GDP比は約2.6%だった。
日本の行動は「象徴的」
南シナ海とインド洋の沿岸国との貿易を有利に進めようとする中国の強引な試みに対し、日本とその“同盟国”であるインドはいら立ちを強めている。両国は昨年、ベンガル湾で海上共同訓練「マラバール」を実施した。両国はそのほか、中国が推進する経済圏構想「一帯一路」に対抗するものとして、「アジア・アフリカ成長回廊(AAGC)」を提案している。
日本はスリランカとの防衛協力の強化に対する関心を強めている。だが、そうした態度は実体を伴うものというよりも、象徴的なものといえるだろう。さらに、日本は行動に出るのが遅すぎ、また状況を変えるのに十分な行動を取っているとは言えない可能性がある。
ギリシャ・アテネにあるプーシキン・インスティテュート・アセンズのスタティス・ジアニコス理事長は、「日本は出遅れただけでなく、中国に追いつけるだけの経済的資源も持たない」「日本経済は多額の債務と低迷という困難な状況のなかで、もがき苦しんでいる」と指摘する。
スリランカに対する日本の行動は、アジアで最も力を持つ2カ国の間に新たな“最前線”を作り出し、地政学的リスクを高めている。この地域への投資を検討している人たちは、両国から目を離してはいけない。ただ、金融市場はこの潜在的リスクについて、特に気にかけてはいないようだ。市場での取引は結局のところ、地政学的リスクではなく、投資の本質的価値に基づいて行われるということだ。