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AIは人間をもっと創造的にする

──「Food Galaxy」を利用すると、どんなことができますか?

たとえば、Food Galaxyのなかには「Flavor Network」という食材が点在したデモがあります。これは、肉、魚、野菜、乳製品など、あらゆる食品が星のように一つひとつの点になって散らばっています。さらに、それらの食材は風味化合物など要素が似ている食材が近い箇所に配置されていて、ある食材をクリックすると、相性のいい食材と線で結ばれて星座のように浮かび上がってくる仕組みになっているんです。

レモンをクリックすると、オレンジやシトラスなどと結びつく。そこから導き出せるのは、たとえばどのような食材が代替可能になるか、ということです。

こうした機能と膨大なレシピデータ、西洋や東洋といった食文化の位相といったビックデータを組み合わせると、Food Galaxyのなかで「すき焼きー日本風+フレンチ風」のような計算ができます。そこで実際に試してみたのが「フレンチ風すきやき」でした。

すき焼きに使われる食材を、フレンチの食材に置き換えてつくってみるとどうなるのか? Food Galaxyから提案された「みりん→カルヴァドス(りんごの蒸留酒)」「植物油→オリーブオイル」などの置き換えをもとに、ミシュランを獲得しているシェフの松嶋啓介さんに実際に「フレンチ風すき焼き」をつくっていただいたんです。

でも実際に食べてみると、少し味が物足りなかったんです。松嶋さんの意見をもとに分析してみると、どうも「旨み」が足りないらしいということがわかりました。それまで「旨み」という概念はビックデータのなかに取り込んでいなかったので、新たに加えて、Food Galaxyをアップデートすることができました。

──この実験から、どんなことが見えてきましたか?

この経験から見えてきたのは、「食」に関していうと、まだまだ人間がAIとインタラクションする部分がたくさん残されていること。そして、その残されている部分というのが、AIが苦手とする、見た目や雰囲気、あるいは誰と食べるかといった、複雑な要素でした。人間の創造性とはなんなのか、また、AIの提案を元にどれだけ人間の創造性を刺激していけるのか。そこを考えていく必要があるなと思いました。

──実際に松嶋さんに「フレンチ風すき焼き」という斬新なメニューをつくってもらったように、人間がつくる料理の可能性をAIが広げてくれるし、同時に、AIが提案する料理は人間の手によっておいしく改良されていく、という相互関係だったんですね。少し大きな質問になりますが、これからの「人間とAI」はどのような関係性であるべきとお考えですか?

人間にしかできないところと、コンピューターにしかできないところがあると、私は思っています。敵対するのではなくて、AIと人類が協調する関係が、これから必要になると。

「データの量」と「複雑性」という2つの軸を考えたとき、コンピューターはデータ量が多くてシンプルなものが得意です。一方、人間は複雑だけどデータ量が少ない分野が得意。これからの創造性に関していうと、「データ量が多くて複雑なもの」に対して、どれだけアプローチできるかが重要だと考えています。そのためにも、人間とコンピューターがコラボレーションすることが必要なのです。

──最後に、これからの目標を教えてください。

人々がまだ知らない「未知の料理」や、新しい料理の法則を当てはめた「究極のレシピ」をつくりたいですね。先ほど、ひとつのレシピはだいたい10個の食材の組み合わせでつくられているとお話しましたが、もしかするとそれは、人間が考えているから10個という制約があるのかもしれない。

AIを使えば、10個よりもっと多く、極端に言えば50個や100個の食材でものすごく美味しいレシピもできるかもしれません。そんなふうに、いままで人間が思いもよらなかった料理を考えてみたいと思います。

また料理を題材に、「創造性」についても「シェフ・ワトソン」の開発者であるイリノイ大学のラヴ・ヴァーシュニー教授と共同で研究を行っています。

たとえば、「完璧な人間」と「完璧なAI」があったとしても創造性には限界がありそうだということが、いま進めている研究からわかってきています。創造性というものの、可能性と限界に迫っていきたいです。



Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。

「Healthcare & Science」カテゴリーで選出された、データサイエンティストの風間正弘以外の受賞者のインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている。



風間正弘◎1991年山梨県生まれ。Indeedでフルタイムのエンジニア/データサイエンティストとして働きながら、個人プロジェクトとして料理のビッグデータから食材同士のつながりを可視化するツール「Food Galaxy」を開発する。「AIと創造性」をテーマに、「シェフ・ワトソン」開発者でイリノイ大学教授のラヴ・ヴァーシュニーとも共同研究を行う。

文=吉田彩乃 写真=帆足宗洋(AVGUST)

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