「『持たざる者』であり続けたい」
──誰もがアプローチできていない問題に対して、学生団体から始まった組織がいま、世界に先駆けて突破口を見出し始めている。永井さんの何が、周りを巻き込む力になっているんでしょうか?
決してぼくが『ワンピース』のルフィのような存在で仲間が集まってきている、というわけではありません。アクセプト・インターナショナルではイシューの特定とイシューへのアプローチがどれほど論理的であるかを大事にしているのですが、その問題解決の方法論に賛同してくれる、骨太で気高さをもった人たちが応援してくれていることがあると思います。規模としてはまだまだ小さいです。でも、共感を煽るのではなく、あくまで問題解決の手段で勝負をしたいという気持ちがあります。
──共感を煽る、というと?
NGO・NPOの世界って、穿った見方をすれば「共感争い」の世界でもあるんです。特に日本では活動の中身やその有用性よりも、いかに心が動かされるかのほうが影響として大きく、結局は共感を集めたところに支援や寄付が集まるわけです。つまり、広報の勝負になってしまっているんです。
もちろんそのすべてが悪いと言いたいわけではありませんが、これだと本当にリスクのある誰も取り組んでいないところや、何より共感を生めない対象や場所、活動内容にはお金が集まらない。このような共感争いが、さまざまな問題の構造をさらに悪化させているとも感じています。
ぼくは基本的には一匹狼なのですが、それはこの独特なNGO・NPOの世界に巻き込まれたくないからです。こうした姿勢を貫いているので「生意気だ」と言われることも多々ありますが(笑)、それでもぼくは「持たざる者」として強烈な前例をつくりたい。
最初から強烈なバックがいたり、力をもっている人を仲間に入れたり、ハイレベルなコミュニティにいることでできることが増えることもあるでしょう。でもどうしても、自分がそうなると、そうなれない人のことを考えてしまう。そもそもそうなれない人のほうが多いはずです。だから、価値ある前例にもなれるよう、持たざる者として、一から、正面から、これまでの常識をぶち抜いてやろうと思っています。
──「持たざる者」というのは、ソマリアのギャングたちにも当てはまる言葉なのかもしれない、と思いました。彼らとは「似た者同士」という感覚はありますか?
それもあるかもしれません。これはギャングに限らずテロ組織からの投降兵に対しても同じなのですが、彼らとの距離が大きく乖離したくない、という気持ちがあります。たとえば大学を卒業するときに、一度良い企業に入って、経験を積んでから国連で働く、といった王道を進むのは、自分としてはしたくない、してはいけないと思ったんです。
逆の立場だったら、きっとものすごくムカつくと思うんですよね。「一緒に世界を変えようぜ」と言っておいて、自分だけ大きな組織に入って、守られた環境から悠々と支援するのかと。実際のところ彼らはその辺をしっかり見ているし、深い信頼に繋がるポイントでもあったりします。そういった意味でも、持たざる者というアイデンティティをもち続けたい、という気持ちがありますね。
──ソマリアと聞くと、日本からは一見遠い世界のように思えますが、「若者」や「持たざる者」といったアイデンティティを共有できたからこそ、永井さんはソマリアのギャングたちと通じ合えた部分があったのだと、お話を聞いて思いました。著書にも、これからの紛争解決のためには「アイデンティティを広げる」ことが大切だと書かれていましたね。
究極的には、みんながみんな「地球人」という自覚をもてればいいのだと思っています。もちろん、地球上の76億人に等しく共感することは不可能です。でも、共感はしないけど他者の権利は認めるということが大切で。日本人として、若者として、地球人として、人間として、とアイデンティティを広げていくことで、同じ人間同士、相手の権利を尊重することができる。そういったことが大事なのだと思っています。
異なる人種や考えのグループが無数にあるなかで、それでも同じ地球の上で共存していかなければいけないじゃないですか。たとえ共感はできなくとも、他者を尊重しながらうまく生きていく──消極的な平和かもしれないですけど、それでも、それこそが平和のかたちだと思うんです。
Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。
「Social Enterpreneurs」カテゴリーで選出された、アクセプト・インターナショナル代表理事の永井陽右以外の受賞者のインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている。
永井陽右◎アクセプト・インターナショナル代表理事。1991年神奈川県生まれ。早稲田大学在学中にNGO「日本ソマリア青年機構」を設立。2016年、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの紛争研究修士課程修了。2017年春より「日本ソマリア青年機構」をNPO法人化し、「アクセプト・インターナショナル」の代表理事に就任。現在51人のメンバーでテロと紛争の解決に向けて活動中。
https://www.accept-international.org/