NASAが資金援助した北極圏の調査プログラム「北極・北方脆弱性(ABoVE)」の研究者らは先日、英科学誌「Nature Communications」に調査レポートを公開した。そこでは、北極圏の永久凍土が溶解して出来た湖から、メタンガスや二酸化炭素などの温室効果ガスが放出されている状況が報告された。
北極圏は地球上で最も大量の有機炭素が氷のなかに閉じ込められてきた地帯の1つだ。アマゾンの熱帯雨林で木が倒れた場合は、バクテリアたちがそれを食べ、人間のように二酸化炭素を吐き出すが、他の木が二酸化炭素を吸収し光合成によって酸素にする循環が守られている。
しかし、北極圏の場合は木やその他の生物が死んだ場合、すぐに凍結して氷の中にとどまることになる。このため、北極の分厚い氷の中には、数万年にわたり有機炭素が貯蔵されてきた。
しかし、凍土が溶け始めるとバクテリアたちが目を覚まし、有機炭素を食べ始める。その結果、膨大な量の二酸化炭素やメタンガスが排出されるのだ。
今回のNASAのビデオで示されたのは、北極の凍土が溶けた結果、これまで地下に眠っていたガスが放出されている現場の様子だ。氷の下の堆積物が溶け始めたことにより、莫大な量の温室効果ガスの放出が起きている。
さらに、研究チームは永久凍土層の融解によって生まれる、サーモカルスト(thermokarst)と呼ばれる湖について調査した。永久凍土が融解すると大量の水が放出され、周辺の地盤低下を引き起こす。小さなサーモカルスト湖がより大きな湖をつくりあげ、永久凍土の融解のスピードがさらに加速していく。
研究者らはこの現象が、より大規模で急速な地球温暖化の進行につながりかねないと指摘している。永久凍土の融解による温室効果ガス排出は、我々の想像を上回る急速なペースで進んでいる。