共に、生きる──社会的養護の窓から見る


──それでも削れなかったもの、この映画でいちばん伝えたかったことはなんですか?

映画でいちばん伝えたいのは、「こういう人たちは身近にいるんだよ」ということ。施設や虐待と聞くと暗いイメージがあり、遠い世界の話だと思いがちですが、みんなの周りで案外ふつうに暮らしているのだから、かわいそうだと思ったり、難しい顔をしなくてもいい。ただもうちょっと寄り添って考えたり、興味を持ってもらえたら。映画がそのきっかけになればと思います。

実は、この作品で描いたキャラクターにはモデルが存在します。「身近にいる」と感じてもらうためには実態に即したものにしたかったので、当事者への取材を重ねました。

特に主人公のお笑い芸人は、施設入所こそしていませんが、長いこと虐待をされてきた実在の芸人さんをモデルにしています。

彼にとってはお笑い番組が救いで、虐待的な生活ながらも、心のなかで虐待する親や自分自身にツッコミを入れたりして、なんでも笑いに変えていたそうです。それがいまの自分のお笑いにつながっていると話してくれました。


和樹は、コンプレックスだった施設での経験を笑いに変える。

虐待や施設のことをおもしろく描くことに批判もあるかもしれませんが、映画は見てもらえるからこそいろんな意見がもらえるものです。まずは見てもらって、関心を持ったら、話題にしてほしい。みんなが関心を持つことで救われる命もあるんです。自己責任という論調に一石を投じたい気持ちもあります。だからこそ、まずは知ってもらうことが大事と考えています。

──虐待される子どもの背景には必ず家族の問題があります。でも突き詰めて考えていくと、社会が家族に強いてきたものや社会のなかでの孤立など、「家族」と「社会」の関係性も見えてきます。「家族」というテーマについて、西坂さんはどう考えますか?

まず、この映画の長編は必ず作りたいと思っています。そのときにはもっといろんなケースを描くことになるので、そのなかで「家族」は必ずテーマになってくると思います。やっぱり、社会的養護を受けるということは、「家族」に問題があるからなので。

ぼくは数年前に父を亡くしました。ぼくたちが家を出てからは父と祖父で住んでいて、祖父が亡くなってからはひとり暮らしだったそうです。亡くなってしばらく経ってから発見された、いわゆる孤独死でした。

ちょうどその直前に書いていた脚本が、児童養護施設出身の主人公が父に会いに行くが父はもう亡くなっていた、というストーリーだったので、その不思議なタイミングに驚きました。もしかしたら、どこかでこうなることは分かっていたのかもしれません。

人間だけではなく、動物の親もネグレクトをすることはあります。でも人間は「社会的養護」という枠組みを作って、こぼれ落ちそうな子どもをキャッチして、社会で育て、生かします。その仕組みを作ってきた人間社会と先人たちの努力は、すばらしいものだと思います。

家族が育てることができれば一番いいのでしょうけど、それができない人たちを責めてもしょうがない。犯人探しをしても何も解決はしません。虐待やネグレクトされ、社会的養護の枠組みで育てられた子どもたちが、次に自分たちが新しく家族を作るときに、幸せな家庭を築くことができればいいと思っています。


西坂來人◎1985年福島県生まれ。映像作家、絵本作家。小学5年生から6年生の間、相馬市の児童養護施設で生活する。高校卒業後は映画学校に進学し、特撮の現場で働く。その後、フリーの映像作家、絵本作家として活動。児童養護施設で絵本作りのワークショップを定期的に行っている。2018年の監督作『The Benza』は、韓国のウェブ映画祭で2つの賞を獲得。2018年5月より『レイルロードスイッチ RAILROAD SWITCH』を公開。

文=矢嶋桃子

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