ベゾスによると、これらの指針は現在でも使用されている。ベゾスが優秀な人材を採用するための基盤としているのは、次の3つの問いだ。
1. この人物に敬服できるか?
2. この人物は、採用予定のグループの平均優秀度を上げるか?
3. この人物には、スーパースターになれるような分野はあるか?
ベゾスの採用指針が共感を呼んだ理由は、世の企業が採用に苦戦しているからではないかと思う。では、この3つのシンプルで主観的な質問がなぜ、より良い候補者を採用することにつながるのだろう?
従来型採用法における情報の非対称性
従来型の採用活動は、候補者をその経歴に基づいて評価する複雑な活動だ。経済学者のマイケル・スペンスは、この考え方を「シグナリング理論」として表現し、ノーベル経済学賞を受賞した。この理論は簡潔に言うと、候補者が学歴のような経歴を身につけることで、雇用主に対して自分がその仕事に適任であるというシグナル(合図)を送ると仮定するものだ。候補者は一連のシグナルを出し、雇用主に対して自分が適切なスキルセットと特性を持ち合わせていることを伝えようとする。
従来型の採用は、雇用主と候補者の間の情報格差を埋めるシグナルに頼っている。面接での質問は、候補者の学歴や過去の経験を、未来のパフォーマンスの指標として議論するよう設計されているものだ。自分の経験から分かっている人がいるかもしれないが、この方法は完璧とは言い難い。スペンスのシグナリング理論によると、候補者には良い人材も悪い人材もいるが、両者をシグナルによって判別するのは不可能だ。それでも、シグナルを活用すれば、悪い候補者より良い候補者を採用できる可能性が上がるため、雇用主はこのリスクを受け入れている。
雇用主が知りたいのは、その候補者が自社内のあるポジションで成功できるかどうか、だ。一方、従業員が求めているのはその仕事だ。両者はそれぞれ、非常に異なる目標を基に行動している。この場合、雇用主にとって最適な解決策は、情報格差を埋めるため情報収集をすることではない。候補者側はほぼ常に、情報の非対称性がある状態を確保するためだ。