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2018.09.08

日本人アーティスト、ミカ・タジマはなぜNYで高評価を集めるのか

昨年は東京のギャラリーTARO NASUでも個展「TOUCHLESS」を開催した。"Human Synth" 2017 (c)Mika Tajima Courtesy of TARONASU


──NYで暮らしたことによって想像力が豊かになったなど、影響はありましたか?また、アーティストとして日本を拠点とすることは考えたことがありますか?
 
人のアイデンティティはそれまでの経験や行動によって形成されます。アメリカで生まれ育った私は、とてもアメリカ人らしいと思います。

NYならでは派手な刺激をどうしても求めてしまうし、アートの中心はNYにあるから、ここに住むことを決めました。両親には反対されましたが、本当はNYの大学に行きたかったのです。学生の頃から、憧れのエキシビション、ミュージアムやアーティストなどにすぐ会える距離に居たかったのです。

全ての文化と言語がNYにはあり、アーティストはそれに触れることができます。日本では、私は日本語を完璧に使えるか自信がないし、ここに慣れすぎてしまって……。日本でもっと時間を過ごしてみたいとは思いますが、拠点にするとなると、難しいでしょうね。


(c)Mika Tajima (Courtesy of TARONASU)

──私は海外に頻繁に行きますが、20年以上日本にいるので、日本のアートには主観的な考え方を持っています。

ユニークでクリエイティブな人もたくさん居ますが、刺激やクリエイティブな感覚をあまり感じることができないのが本音です。野心のある人は日本を出るべきだと思いますか?
 
数多くの日本人が海外へ出て行きますが、そこまで競争力が強くない印象を受けます。日本では建築、食べ物、ファッション、文学などアート以外の方法でもクリエイティブになれるからでしょうね。アメリカの建築やファッションはあまり強くありませんが、アートのレベルは圧倒的に高いです。

──日本に来るとどのような印象を受けますか?
 
旅館に行くといつも惚れ惚れしてしまいます。旅館に着いた時、彼らはどうして私たちが到着したことがわかるんだろうと不思議に思います。匂い、温度、空気など全てが完璧。環境が少し変わってもその完璧さは崩れない。そこに胸を打たれる、そしてそれがアートだと思います。
 
──日本人はその繊細さがあるんです。ではなぜ日本人アーティストが増えないんでしょう。
 
伝統のせいかもしれません。日本の教育に触れたことはあまりないのですが、新しいものより古い文化に根付くような教育を受けているのではないのでしょうか。文化やアートも古いものに触れるばかりなのかなと。
 
教育だけではなく、アーティストを育てるコレクターの数も日本は少ないですね。

西洋では、子供のころからアート作品が家にあることも、大人になってアートを買うことも普通。でも日本はそうではない。アートを集める文化を育てないといけません。それには時間がかかります。
 
でも西洋で活躍したり、海外に進出することだけが成功ではありません。日本人が日本にいるからできることも考えるべきかとも思います。
 
──自分のルーツから始めることが大事なのですね。キャリアに悩んでいる日本人のアーティストに向けて、メッセージはありますか?
 
世界中で今何が起きているかを把握した方がクリエイティブになれると思います。あと、海外の大学院、エキシビションなど門戸を開いているところにまずは足を踏み入れてみること。
 
あとはマインデッドコミュニティ(心の拠り所になるコミュニティ)を見つけることも大事です。私のスタジオはブルックリンにあります。ブルックリンのアーティストたちは自分たちのコミュニティを作っています。

コレクションもするし作品も作る。そうやって文化を高めるエコシステムを作るんです。そのコミュニティの人と会うだけでアイディアが浮かんで来ることもあります。

以前のスタジオは古い編み物工場だったので、そこと同じようなエネルギーが感じられるのも、やっぱり選んでのだよかったと思える点です。これまでの歴史やインスピレーションが、過去と未来の作品を繋いでくれるんです。

ミカ・タジマ◎1975年、LA生まれ。1975年ロサンゼルス生まれ。2014年ART BASEL 香港にてBMW賞を受賞。 2017年、New York Artadia Awardを受賞。現在はNYを拠点に活躍中。

文=Yuri Yureeka Yasuda

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