ビジネス

2018.08.31 06:00

売り上げの100%がアメリカ、28歳の「ポスト山田進太郎」#30UNDER30

Anyplace CEO 内藤 聡



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──日本人で初めからアメリカでビジネスを立ち上げる起業家は多くありません。

そうですね。最初から本当にそれがベストな選択肢だ、という確信があったわけではありませんが、『ソーシャル・ネットワーク』や井口さんから影響を受けたこともありましたし、シリコンバレーで活躍する起業家を見て、純粋にかっこいいなと思っていました。

特に僕はツイッターやスクエアのファウンダーであるジャック・ドーシーが大好きです。彼は29歳で起業し、この10年ほどで時価総額が2兆円を超えるような企業を2つもつくっています。
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日本でこのクラスの起業家がいれば、頂点に近いと思うのですが、シリコンバレーにはジャック・ドーシーのような起業家がたくさんいる。

そんな起業家たちに対する憧れもありましたし、一度きりの人生、どうせやるならメジャーリーグでやってみたいという気持ちが強くありました。

とはいえ、最初は自信があったわけでも、何か特別なコネクションがあったわけでもなく、勢いしかなかったです(笑)。英語もろくに話せないような状態でしたから。

サンフランシスコに渡米して、最初の1年は「TechHouse(テックハウス)」というシェアハウスや、「TechWatch(テックウォッチ)」というインタビューブログを運営していました。それからいざ自分でも「次のウーバーやエアビーアンドビーのような企業をつくりたい」と心に決めたとき、自然と「それをやれる場所はシリコンバレーしかない」と考えるようになっていました。


TechHouseでのひとコマ。一番右にいるのが内藤

──それはなぜでしょうか?

スタートアップのエコシステムがあるというのはもちろん、エアビーアンドビーやウーバーのように新しい概念や既存のシステムをディスラプトするようなアイデアが出てきたときの、受け入れ方の違いが大きいと思うんです。

国によっては法的な観点から大きく制限されたり、すごく抵抗される文化があったりもします。その点でアメリカはある意味、国全体がベンチャーのような側面があるというか、新しく、かつグレーなものが出てきた時にみんなで話し合いながら折り合いをつける。そんなプロセスが根付いていると感じたんです。

本当にエアビーアンドビーやウーバークラスの事業を作ろうと思った時に、この違いは大きい。もちろん英語が大変だったりはするんですけど、それ以上にこの土壌の方が重要だな、と。

「住」はもっとフレキシブルにできる

──最初の2年間はいろいろと失敗も重ね、なかなか思うようにいかない時期が続いたそうですね。

最初は少し頭でっかちというか、既存の仕組み同士を掛け合わせるような方法で事業案を考えていたんです。例えば、ウーバーの仕組みを他の業界に組み合わせて「ウーバーの○○版」のような形で。

その延長線上で当時、思いついたのがエアビーアンドビーで売れ残った在庫を、直前に割引価格で販売できるマーケットプレイスです。これはもともとホテルで同じ仕組みを採用していた「Hotel Tonight」が伸びていたので、それのエアビーアンドビー版のようなものでした。

ただ実際にやってみると、ホテルとエアビーアンドビーでは在庫の構造が全く違った。ホテルの場合は1社の顧客を獲得すれば数百室の部屋が対象になり、基本的にはどこかしらの部屋は空いてます。でも、エアビーアンドビーの場合は1人獲得しても獲得できるのは1物件。

1室の獲得コストが高すぎるんですよね。その上、良い部屋であるほど余らないですし、他社プラットフォームへの依存度が高すぎる点もサービスの成長を考える上でネック......。最終的にはクローズすることを決めたんです。

振り返ってみると、この頃が人生で最も落ち込んでいた時期かもしれません。自分の実力のなさを痛感しましたし、自信も失っていました。

その他にも中古家具のレンタルサービスを始めいろいろな事業をやってみましたけど、なかなか自分が信じられるものは見つからなくて......。

そんなとき、常に支えてくれたのがキヨ(小林 清剛)さんでした。何度もアイデアの壁打ちに付き合ってくれたり、暖かい言葉をかけてもらったり。


一番右にいるのが小林清剛。メルカリの山田進太郎(右から2番目)もTechHouseを訪れている

他にも太河さんや、周りの人がアドバイスやフィードバックをくれて、何とか途中で投げ出すことなく続けることができたんです。

約2年の間に何度も試行錯誤を続けた結果、自分の中でひとつの結論に至りました。それが「自分が心から信じられてすごく欲しいけど、まだ世の中にはないもの」を見つけられれば、それは良いアイデアである可能性が高く、大きなチャンスだということ。

その考え方に従って生まれたのがAnyplaceのアイデアでした。
次ページ > Anyplaceに行き着いたきっかけ

文=大崎真澄 写真=Christie Hemm Klok

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