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フォーブス ジャパン 編集長

5大賢人の“トリ”は、かつて日本で最も優れたストラテジストと評され、地政学、歴史的観点を持つピーター・タスカ。彼はいまの日本経済をどのように見ているのか

ピーター・タスカ氏は1990年代、日本経済新聞の「マーケット・アナリスト・ランキング」で5年連続1位になるなど、日本で最も優れたストラテジストとして知られた。タスカ氏が書いた「タスカレポート」は市場関係者をはじめ多くの人たちから注目を集めた。90年代初頭には、日本の「デフレ化」を指摘。97年には2020年の日本経済について記した『不機嫌な時代』が大ヒット。祖国イギリスの衰退を、日本経済に重ね合わせて、日本経済に警鐘を鳴らし、大きな社会的インパクトをもたらした。

 そしていま、再び、イギリスに日本を重ね合わせ、強気派として「日本経済復活」を訴える。かつて、地政学、歴史的な観点を持つ「最高の知性」と言われたタスカ氏に、日本経済の将来について聞いた。

(中略)
脱デフレは脱インフレの“鏡像”
高野:私は、最近の日本市場は“黒田マジック”による金融緩和、その結果もたらされた円安による輸出採算の改善、そして原油安とトリプルメリットを得ていると思いますが、金融緩和以外は多かれ少なかれ外的要因です。世界経済の中における日本という観点から見た場合、日本株式市場はどのような状況にさらされているのでしょうか。

タスカ:いま、世界経済の一番のポイントは、「脱デフレ」です。デフレの克服について、経済学者、エコノミストの間でさえコンセンサスがとれていません。
 私自身は、潜在成長率の低下、需要不足がデフレ要因であり、脱却のポイントは金融政策、あるいは財政政策、あるいは金融・財政の両方で構造改革を行って、潜在成長率を高められると思っています。
 ただ、最も注目しているのは、「脱デフレ」が「脱インフレ」のミラーイメージである―ということです。
 いまでは考えにくいですが、08年のリーマン・ショック以前、世界各国の政府や中央銀行の関心事は、インフレの抑制でした。「脱インフレ」がはじまったのは70年代後半。カーター、レーガン政権下で第12代連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めたポール・ボルカー(79~87年)が出てきて、金融引き締めを行いインフレ抑制に努めました。しかし、それが本当に成功したのは90年代に入ってから。つまり、インフレ抑制が70年代から90年代半ばまでかかったことになります。
 当時、インフレの要因について、金融政策、原油価格など諸説ありましたが、誰もわかりませんでした。いまのデフレも同様です。日本では潜在成長率の低下、需要不足に加え、人口減少や中流層の購買力不足など諸説出ていますが、まだ誰もわかっていません。「脱デフレ」の流れは、まさに「脱インフレ」と同じ道を歩んでいると言っても過言ではありません。

世界的「脱デフレ」で恩恵を受ける日本
高野:なるほど。歴史は繰り返すということですね。

タスカ:こうした「脱インフレ」で最もメリットを受けたのはイギリスでした。
 私が高校時代を過ごした70年代のイギリスは“ヨーロッパの病院”と言われるほど景気が悪化していました。なかでも、インフレが大きな構造的問題で、当時のインフレ率は15~18%。そんななか、「インフレ抑制が世界的な問題だ」という世界的なコンセンサスができたことで、無気力だったイギリス政府も立ち向かわざるをえなくなり、結果的に世界中の株式市場で最も上昇したという経緯があります。
 同じように「脱デフレ」で一番深刻な国はどこか―。それは日本です。現在、欧州をはじめ、世界中でデフレ的兆候が出てきていますが、本格的なデフレは日本だけです。
 ミラーイメージをそのまま引用すれば、世界が「脱デフレ」でコンセンサスができれば、一番恩恵を受けるのは、日本になるでしょう。今後、日本の投資環境は非常によくなる可能性があるのです。

高野:日本では、黒田東彦・日銀総裁が14年10月、「脱デフレ」の本気度を実力行使で示すかのように追加金融緩和を行いました。量的・質的金融緩和(QQE)をめぐっては、懐疑的な人もいます。一方、FRBは量的緩和の縮小(テーパリング)をし、「脱デフレ」抑制のようにも見えます。

タスカ:先ほど出た格言に戻ると、相場は懐疑の中でこそ育ちます。
 私自身は、FRBの出口政策に関しては、思っている以上に慎重にやると思います。つまり、株式市場に大きなインパクトはないという見方です。
 これまでも、FRBは、バーナンキ前議長、イエレン議長とうまく市場とつきあってきました。テーパリング時の市場の反応は予想外でしたが、それ以外はうまく市場をコントロールしてきました。一方で、マスコミをはじめ、弱気論者たちは、FRBの力量を見誤り相場を見誤りました。それも、一度だけでなく、二度三度も。
 それは結果を見てみると明らかだと思います。アメリカの株価指数であるS&P500は、オバマ大統領の就任時の700ポイントから、現在の2,000ポイントまで、3倍近く、上昇しました。オバマ大統領は歴史的に最も株式市場の上昇に貢献した大統領になりました。S&P500がこれほど伸びる大相場はめったにありません。
 今後、米国株は上昇基調が続き、テーパリングも石橋を叩きながら少しずつ行われるため、市場へのインパクトはほとんどないでしょう。市場もそろそろ量的緩和(QE)が終わりであることは織り込み済みですから。
 とはいえ、楽観視には注意が必要です。すでにS&P500が3倍に上昇するという大相場です。つまり格言の中の3番目、楽観の中の成熟期を迎えています。

ROEを高められる“いい環境”に
高野:話を日本に戻しましょう。FRBと黒田日銀とでは金融緩和のフェーズが違います。日銀の金融緩和は今後も続くのでしょうか。

タスカ:日本はまだ本格的なQEの2年目。ですから、アメリカの11年に相当するので、まだまだ株価上昇は続いていくでしょう。
 とはいえ、日本は90年代から12年までデフレが長く続いたので、インフレ期待を定着させるには時間がかかるでしょう。日銀の黒田総裁が目標としている15年度前後に消費者物価上昇率2%の達成は難しい。少なくとも5~6年はかかると思います。
 懸念されている政府債務についても、民間の資産で相殺されます。アメリカ・コロンビア大学のデービッド・ワインスタイン教授によると、日本の政府債務はGDP比240%ではなく、80%。まったく問題ではありません。

高野:日本はデフレ期間、債務拡大からの調整、いわゆるディ・レバレッジング期間でした。それが逆回転し、現在はレバレッジが上昇しつつあります。とすれば今後は株主資本利益率(ROE)が拡大するフェーズに入ったと思われますか。

タスカ:日本は、インフレをもたらす景気回復は難しいですが、ROEを高められる“いい環境”が続くでしょう。
 これまで景気悪化の中で国内総生産(GDP)の低成長、名目GDPの縮小が続いてきたため、高ROEをあげることは難しかった。いま、環境が好転し、ROEは20年ぶりの高水準となりました。
 とはいえ、まだ9.5ポイント程度で、世界的に見るとそこまでではない。PERも割安。ですから、大相場の中でROEがさらに改善し、PERも拡大すると思います。
高野:とはいえ、現在、企業の業績は好調ですが、景気自体はそれほど改善していない。ファンダメンタル相場の場合、企業の業績が好調になると、株価は基本的には上がります。しかし、いまは、それに流動性が供給されているため、リスクプレミアム(リスクに対する上乗せ分の金利など)が下がり、企業収益にいい影響を与え、株価がさらに上昇するというプロセスが生じている可能性があります。この景気と企業の乖離が生まれているのではないでしょうか。

タスカ:そうですね。ですが景気がよくないが企業業績はいいという環境は、投資環境として“最高”といえるでしょう。
 14年、日本の景気が足踏みしているのは、増税の影響です。特に、GDPの6割を占める個人消費や住宅投資が悪化しました。
 しかし、株式市場の収益構造は、景気とは異なります。景気が影響する小売業や住宅産業の収益が株式市場に与えるインパクトは少なく、自動車産業や携帯電話産業、銀行業などのインパクトが大きい。
 したがって、景気がよくなくても、企業の業績が増益に次ぐ増益になるわけです。株価は上昇していますが、増益もしているので、PERは拡大していないわけです。

“20年間の大循環”がはじまる
高野:前述の日本経済のトリプルメリットを考えると15年の日本の景気は改善するのではないかと思いますが、タスカさんもそう思われますか。
タスカ:15年は、景気はよくなると思います。名目GDP、実質GDPともに少しずつ増えるのではないでしょうか。しかし、インフレ率は日銀が目標としている2%には届かず、0.5%程度だと思います。
 黒田マジックを使っても「実質所得が伸びていない」「雇用が増えても、非正規雇用しか増えていない」という批判がありますが、雇用と賃金は遅行指数。最初から賃金が上がる景気循環は存在しません。私自身は、アベノミクスが日本にとって非常にふさわしい政策だと思っています。
 とはいえ、世界は常に、そしてどんな問題も不透明です。皆が自信を持ってこうだと言える環境のほうが投資家にとって、危険な状態だと思います。
 しかし、日本株市場は、大相場心理により、悲観的な心理から変わろうとしているのは確か。“20年間の大循環”が、どこまでいくかわからないですが、少なくとも悲観論から脱却することは確かだと思います。

高野 真(弊誌編集長)

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