シャトー・ムートン・ロスチルドは、毎年ワインラベルの絵をアーティストに依頼することで有名だ。だから多くの人がワインを発表する時にラベルにも注目する。
フランスの巨匠画家バルデュス氏と日本人の節子夫人は、長い歴史を持つシャトー・ムートンの中で、唯一夫婦揃って絵を提供している。4年前に節子夫人が来日した際に久しぶりにお会いしたが、バルデュス氏は1993年、節子夫人はそれよりも2年早くにラベルに作品を提供していたことを聞いて驚いた。
バルデュス氏は、クロッキーで描いた少女の裸体画をラベルに提供して物議をかもし出し、米国では輸入禁止危機までの騒動となった。こうした話をしながら、節子夫人とご友人を囲んでお食事できるのは、実に嬉しいことだ。
ワインがあると会話が弾むものだが、気づいたら本当のことを言ってしまうというワインもある。ムートンとラフィットに挟まれた絶好のロケーションでつくられる、シャトー・ランシュ・バージュ。私は「告白ワイン」と呼んでいる。本心を聞き出したい時には、このワインに限ると思っている。
こんな風にワインが大好きな私だが、食事の時のワインは、「この食事にあう、リーズナブルで美味しいワインをセレクトしてください」とお店の人の任せるようにしている。これまでの経験で言うと、間違いなく満足できるワインを出してくれる。外でワインを飲む時は、知ったかぶりをするとどうやら高くつくようだ。
集める楽しみから、開ける楽しみに
軽井沢の家の地下には、ワインのカーヴがある。そこに友人たちを招待すると、なぜワインをこんなに所有しているのかと聞かれることがあるが、カーヴにワインを所有する楽しみは、飲み頃になるまで長い時間をかけて育てることだと思っている。
何十年という年月が過ぎるとともに、自分自身も徐々に変化していき、ワイン1本1本に対する考え方も変わってくる。そこがまた面白い。まるで、ベンチャー企業が成長していくのと同じようだと思っている。
瓶の中で静かにワインが熟成する時間は、最高に贅沢な楽しみだ。若い頃、ワインにかなり投資していたのも、それが理由だ。今ちょうど飲み頃のワインが、カーヴにたくさんあるだろう。
近いうちに、軽井沢でやりたいと思っていることがある。人生で苦楽をともにした人たちを集め、年月が経って熟成しているワインに中からそれぞれが思い出のある年をセレクトする。そして、なぜ選んだかその頃を思い出し、みんなで語らいながらカーヴの中で飲む。そんなワインの会を開きたい。今からとても楽しみだ。
The IDEI Dictionary 〜変革のレッスン〜
過去記事はこちら>>