ビジネス

2018.09.03

おっちゃんたちとつくる、ホームレス状態のない日本 #30UNDER30

Homedoor理事長 川口加奈


──では活動のなかで充実感や達成感を抱くのは、やはり、おっちゃんを路上から脱出させることができた瞬間なのでしょうか。

私は、おっちゃんたちが路上から脱出できるかどうかを目標にはしていません。そうしてしまうと、彼らに路上脱出を無理強いしてしまう気がするんですよね。私たちは、「ホームレス」をゼロにしたいわけではなく、路上から脱出したいと思ったらその選択肢が多種多様にあるという状況をつくり出したいだけなので。


Homedoorの活動を代表するシェアサイクル事業「HUBchari」は、明るい水色の自転車が目印だ。(写真:Homedoor)

変わらない想い

──Homedoorの支援は、ホームレスの方たちにまず多様な選択肢を提示しようとする姿勢が印象的です。公共のサービスがカバーできない「隙間」を埋めたい、という意識によるものなのでしょうか。どんな部分にもどかしさを感じますか。

ホームレス状態にある人たちは、複合的な要因を抱えており、一筋縄での支援は難しく、機動力や柔軟性が必要です。しかし、大きな組織である行政では、支援を届けられない部分もあると思っています。

私たちの活動は、「こんな支援があったらホームレス問題は解決する」という仮説を当事者たちの意見を取り入れながら実施し、理想の支援モデルを生み出しているイメージです。いつか、自分たちの満足のいくものがつくり上げられた暁には、行政の力を使って制度に取り入れてもらい、全国に広げていくことが目標です。

私が感じているとすれば、公的なサービスへのもどかしさよりも、ホームレス問題の現状と世間の意識の「ギャップ」でしょうか。ホームレス状態になったのは自己責任だと思われがちですが、実際におっちゃんたちと話すと、失業や病気、障がい、貧困の連鎖など、本人の責任だけでは片づけられない問題が背景にあると強く感じます。

──今年はアンドセンターを開設して、高校生のときに描いた「夢」にぐっと近づいたのではないかと思います。最後に、Homedoorの次の目標を教えてください。

おっちゃんたちに仕事の機会と住まいを提供したい、という部分はハード面においてほとんど実現できたという感覚でいます。しかしまだまだ、ソフト面は足りていません。

「Homedoorに来たら100%困窮状態から脱出できる」というほどに支援の精度を上げていくこと、そして、困窮状態に陥ったときにとりあえずあそこにいけばなんとかなると思ってもらうこと、その2つを達成したいと思っています。

私はずっと、「知ったからには知ったなりの責任がある」という言葉を胸に活動してきました。14歳でホームレス問題をたまたま知ることができて、知って終わりにしたくなかった。知ったからこそ、できる何かを自分なりに続けてきただけだと思っています。

おっちゃんたちのニーズを代弁して、必要とされることを実現する。これからも変わらず、それを淡々と続けてゆくだけだと思っています。



Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。

「Social Entrepreneurs」カテゴリーで選出された、Homedoorの川口加奈以外の受賞者のインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている。



川口加奈◎1991年大阪府生まれ。14歳でホームレス問題に出合い、炊き出しなどの活動を開始。19歳でHomedoorを設立し、シェアサイクル事業「HUBchari」を中心にホームレスの人々の生活・就労支援を提供する。2018年6月、5階建のビルを使った新拠点「アンドセンター」を開設。「グーグルインパクトチャレンジ」「人間力大賞」など受賞歴多数。http://www.homedoor.org/

文=松本優真 写真=衣笠名津美

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