──「アンドセンター」は、高校3年生のときに描かれた絵がアイデアの原点だそうですね。
高校生のとき、路上から脱出したいと願いながらも、路上で誰にも看取られることなく亡くなられてしまったホームレスの人に出会い、無力さを感じました。その経験から、もう一度やり直したいと思ったら誰もがやり直せる、そんな社会にしたいと強く思いました。
「安心して寝泊まりができ、仕事をしたり栄養のある食事が食べられたりする、そんな場所がこの日本にひとつでもあればホームレス問題は解決するんじゃないか」──そんな思いで描いた絵は、当時はまさに文字通りの「夢」でしたが、いま振り返ってみると、あのときに思い描いていたことをひとつずつ、きちんと実現していました。そしていま、ここまでたどり着いたことに驚いています。
川口が高校生のときに描いた「夢」と題された1枚の絵。キッチンや寝室など、ホームレスの人たちが生活をするための機能が集約された空間が描かれている。
着々と、スタッフと、おっちゃんたちと
──近年は、「日経WOMAN ウーマン・オブ・ザ・イヤー 若手リーダー部門」への選出(2013年)や、「グーグルインパクトチャレンジ」でのグランプリ受賞(15年)、「人間力大賞」でのグランプリ受賞(17年)など、活動の実績を評価される機会も増えました。
活動を始めたばかりのころは、何の実績もない女子大生が周囲の信用を得て事業を展開していくのは非常に大変でした。あるときHUBchariで働いているおっちゃんに「あんたじゃ話にならんわ。社長を出せ」と言われ、自分が代表だと言えずに困ったこともあります(笑)。
それでもあきらめずに淡々とやり続けてきて、結果としていまがあります。2012年にスタートしたHUBchariは、いまでは40以上の拠点でご利用いただけるまでに増えています。
Homedoorではいつも10年計画から逆算して、毎年のマイルストーンを決めています。そこで貫いているのは、たとえば「この年に20のことをやったら次の年は100のことをやろう」ではなく、「毎年、20をきちんと続けていこう」という考えです。これを着々と積み重ねられているのは、一緒にやってきたスタッフの力が大きいですね。自分で自分の管理ができる人がそろっていて、互いの強みを持ち寄っている結果だと思います。
──そうした頼もしいスタッフとともに活動を続けるためのインスピレーションやモチベーションは、どこから湧いてくるのでしょう。
仕事をするうえでの“バイブル”や“ロールモデル”のようなものは思い当たりません。「目指すべきもの」を意識しすぎるとしんどくなるじゃないですか。ただ、最終目標だけは常に頭の中に思い描きながらも、目の前の一人ひとり、そのときの状況に向き合っていたいんです。
むしろ、日頃のおっちゃんたちとの会話が、何よりのヒントになっています。雑談しているだけでも、「もっとこうしたらいいんじゃないか」とアイデアをたくさんもらえます。その意味で、常に10~20人くらいのおっちゃんがすぐそばにいる環境に身を置けるようになったことこそが、インスピレーションの源と言えるかもしれません。