インドネシアの漁村を救う、三菱電機の「課題解決型冷蔵庫」

一年を通じ最高気温30度以上。雨季には激しい雨が降る、インドネシアの最貧地域の一つ、クパン。2016年8月、NPO法人スタッフと三菱電機の松山祥樹は朝5時に市場で魚売りを待ち伏せしていた。仕入れが終わると車に乗り込み、未舗装の道路の上を揺られて必死に魚売りのバイクを追う。

視線の先はバイクの荷台の上、箱型の家電。離れた村々に新鮮な魚を届ける課題解決型の冷蔵庫だ。

松山は入社2年目の13年、同社デザイン研究所の若手向けコンペ「Design X」で途上国の低所得層向けプロジェクトを提案、採用された。翌年、企業の途上国進出支援などをするNPO法人のコペルニクにアドバイスを求めた。

コペルニク・ジャパンの代表理事、天花寺宏美は「相談に来た企業には、まず現地を見ることを勧める」と話す。日本だけで開発しても現地のニーズにあった製品にならない。とはいえ、すぐ海外に行ける会社は少ない。松山らの熱意が会社を動かし、現地調査が決まった。8回の現地調査と試作を繰り返し、昨年、最新機を発表。SDGsを先取りしたコンセプトとそれを実現するデザインが話題になった。

バイクから電源を取る箱型の冷蔵庫は、使いやすさを保ちつつ、厳しい暑さと直射日光、振動や雨などに耐えられる。ユニークなのは、高所得層のリビングにも合う高級モデルのデザインも兼ねている点。同じ金型で大量生産できる。

技術的にもビジネスモデルとしても未完成だが、他企業からの反響が大きい。堅実経営で知られる三菱電機。天花寺は「あの三菱電機さんが、というインパクトは強い」と指摘する。「うちもやりたい」との問い合わせが相次いだ。

社内への好影響もあった。木製玩具のような、視覚障害者も直感的に使えるリモコン。車椅子でも簡単に通れるゲートのない自動改札機。研究所内の展示室には、社会課題の解決を目指す、若手デザイナーの未来のプロダクトのアイデアが誇らしげに並ぶ。松山のプロジェクトをきっかけに、若手のアイデアを実現する会社のサポート環境がさらに整う。

「企業と現地はウィンウィンです。やる気がある若手だけでは何も進みませんが、企業の支援があれば、そのポテンシャルは計り知れません」(天花寺)

文=成相通子 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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