「バカだから仕方ない」で片付けない 教育格差のない社会を目指して #30UNDER30

Learning for All代表理事 李炯植


感謝されない、当たり前にある存在になりたい

──LFAの活動で、とくにやりがいを感じる瞬間は?

未来に何の希望をもてていなかった子が、私たちのつくった教室に来て、学ぶ楽しさや意味を見つけ、将来の夢や目標について話してくれるようになったとき、ですかね。

小学校5年生の頃からうちの教室に通ってくれている女の子がいて……ちょっと、その子の話をしてもいいですか?

──ぜひ、お願いします。

彼女は生活保護を受けている家庭の子で、初めて来たときは勉強もかなり遅れ気味、自信がなくてほとんど感情を表に出さないような状態でした。でも、勉強自体が嫌いというわけではなくて、うちに通うようになってから熱心に自習して、少しずつ遅れを取り戻していきました。

中学生に上がると「英語の授業が楽しい」と教えてくれて。彼女の得意を伸ばして自信をつけてもらいたくて、英語がペラペラな大学生を講師としてつけました。

中学3年になると、彼女は自分で外国語の特進コースのある高校を見つけてきて「校区外だけど、ここに行きたい」と宣言したんです。これまで以上に勉強を頑張って、見事その高校に合格し、教室を巣立っていきました。

つい最近、大学生になった彼女に再会したんです。「来月から10カ月留学するんだ」と、楽しそうに話してくれました。とりわけ嬉しかったのは、彼女がLFAのことをあまり意識していないことでした。

──意識していない、とは?

過度に感謝されない、という感じですかね。感謝されないくらい、私たちの手がけているような支援が、社会にあって当たり前の存在になることが理想だと思っています。自転車の補助輪のように、必要な人にとって最初は用意されて当然で、ひとりで進めるようになったら外して、そのうち付けていたことなんて忘れる──そういう存在でありたいです。

すべての子どもには、無限の可能性があります。そして、幸せに生きる権利をもっている。どんなに勉強が遅れていても、どんなに救いのない環境にいても、機会と期待を与えてほんの少し支えれば、子どもたちは前向きに成長し、自力で明るい未来を切り開いていけるんです。その姿に、たくさんの希望をもらってきました。

LFAはこれからも子どもたちの支援を続け、彼らがもたらす希望の力で、この世界を変えていきたいと思います。



Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。

「Social Enterpreneurs」カテゴリーで選出された、Learning for All代表理事の李炯植以外の受賞者のインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている。



李炯植◎Learning for All代表理事。1990年兵庫県生まれ。東京大学在学中、認定非営利活動法人Teach For Japanの一事業であったLearning for Allに参画し、常勤職員として全国の学習支援事業の統括業務に従事。その後、特定非営利活動法人Learning for Allを設立、同法人代表理事に就任。「全国子どもの貧困・教育支援団体協議会」幹事。

文=西山武志 写真=小田駿一

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