「バカだから仕方ない」で片付けない 教育格差のない社会を目指して #30UNDER30

Learning for All代表理事 李炯植


「バカだから仕方ない」に反論するために

──弛まぬ努力の末に東大に合格し、上京もされて、それまでと環境が大きく変わったかと思います。当初の思惑通り、そこで「よりよく生きる」ための道は開けましたか。

いえ、実際はそうでもなくて。私にとって受験勉強は、定められた目標をクリアするためだけに膨大な時間を費やす、単調でつまらないゲームのような感覚でした。それが大学でも「いいサークルに入る」「いい評価をもらう」「いい企業に入る」と目標が変わっただけで、やることが同じように感じられてしまって。入学してから2年ほどは、大学が面白いと思えず、講義にもほとんど出ていませんでした。

──地元との違いに、カルチャーショックを受けたことは?

周りの同級生たちの社会階層の高さに驚かされました。総じて“いいとこの子”が多くて、小学校からずっと名門の私立校に通ってる人や、お屋敷のような家に住んでいる人、帰国子女にも初めて会いましたね。自分は血を吐くような思いでフルマラソンを走ってきたのに、彼らは汗一つかいてないように見えてしまって……やっかみなんですけど「何やコイツら、いけ好かんわ」と思ってました(笑)。

ただ、私にとって身近な現実だった貧困を、彼らの大多数は遠い世界の話のようにしか思ってないことには、やり場のない怒りのような感情を抱いていました。格差があるというよりも、自分の生まれ育った街が、社会から切り離されているように感じられることが度々あったので。

──その断絶は、たとえばどんな瞬間に強く感じられましたか。

ある時、授業が一緒になったクラスメイトたちに、私の地元の同級生の現状や、自分の抱えている問題意識を共有して「どう思う?」と聞いてみたことがあって。そしたら「それはバカだから仕方ない」と言われたんです。

私は「それは違う」と言い返したかったのですが、根拠をうまく言葉で説明できなくて、とても悔しい思いをしました。このときに感じたやるせなさや怒りが、いまの活動に至る大きな原動力になっていると感じます。

その後、3年次で哲学者の金森修先生のゼミに入ったのをきっかけに学ぶ楽しさに目覚め、ひたすら本を読み漁るようになりました。それまでは本なんて、参考書と『ハリー・ポッター』くらいしか読んだことなかったんですけど(笑)。

──どんな本を読まれましたか。

哲学や経済学、教育学についての本を中心に、広く社会の構造を理解するうえで役立ちそうなものを読みました。さまざまな視点での世界の切り取り方を学んで、貧困問題を「バカだから仕方ない」と言われたときに、ちゃんと反論できるようになるために。教育から子どもたちの貧困にアプローチしていこうと思い始めたのも、ちょうどこのころからでした。

その中で「理論の勉強ばかりでなく、現場での実践も必要だな」と感じるようになって、大学3年の終わりに、初めてTeach For Japanの活動に参加しました。そこからはもう、教育支援の現場につきっきりです。


学びと育ちの両方をサポートする「子どもの家事業」の様子。
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文=西山武志 写真=小田駿一

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