MITで働く21歳サイエンティストの「腹ペコの野性」#30UNDER30

ワイルド・サイエンティスト 片野晃輔


──なかなか、メディアに紹介されている「出会いのエピソード」のようにはいかないものですね。

はい。「やっぱ無理だな」と思って諦めかけていたとき、突然、メディアラボの所長・伊藤穰一(Joi)さんから連絡があったんですよ。ひょんなことからぼくが送ったメールがMITの事務を通して偉い人たちに紹介されたのがきっかけだったようで、何度かメールをやり取りして、Joiさんが東京に来るタイミングで会えることが決まったんです。高校を卒業して3日後くらいのことでした。

──伊藤穰一さんと会って、どんなことを話したんですか?

Joiさんがすごいのは、ぼくと会う前に、事前に研究についてきちんとリサーチしてくれていたことでした。研究紹介用の資料をいくつか持参したんですが、「ああ、それならもう読んだよ」という感じでした。「いま何歳? 18歳だったらもう自分の意志で海外旅行できるよね。だったらいつでも来なよ」──そう言っていただいたときは、飛び上がるほど嬉しかったですね。


MITメディアラボにて。(Photograph by Takatoshi Yoshida)

ステイ・ハングリー

──片野さんは、今後はどんな科学者を目指すのでしょうか?

現在は最初にお話した、MITでExMの研究を進めています。いろんなことに応用ができるので、ぼくの元々の研究テーマであるエピジェネティクス領域にも応用したいと思っていますが、ほかにもやりたいことが山ほどある。

いまはMITに所属をしていますが、姿勢としては「独学」という自分のスタンスを大切にして、常に新しいことに挑戦していきたいと思っています。大学には、肩書や「所属する」ということだけが目的になって来ている人もたくさんいます。言ってみれば「肩書スタンプラリー」ですよね。それはつまらないと思うんです。

──片野さんのその「野性」は、どこから湧いてくるのでしょうか。

常に辛い状況に自分を置いていたい、という気持ちがあります。ぼくは逆境が大好きみたいで。高校のころは、エピジェネティクスの研究を寄付してもらった10万円を資金に研究してたんですが、家庭環境も裕福じゃなかったので、まさに「持たざる者」という感じでした。

でも、そのなかで培った感覚こそがぼくの強みだと思っています。満たされた環境だとできない、思いつかないことがたくさんある。本当の「ハングリー」が、永遠に満たされない欲求を与えてくれる。いまは世界中から集まる天才たちに囲まれる日々のなかで感じる、敗北感が楽しい。「次は何を盗んでやろう?」──そう思いながら、研究をしています。



Forbes JAPANはアートからビジネス、 スポーツにサイエンスまで、次代を担う30歳未満の若者たちを表彰する「30 UNDER 30 JAPAN」を、8月22日からスタートしている。

「Healthcare & Science」カテゴリーで選出された、ワイルド・サイエンティスト片野以外の受賞者のインタビューを特設サイトにて公開中。彼ら、彼女たちが歩んできた過去、現在、そして未来を語ってもらっている。


 
片野晃輔◎Wild Scientist。1997年新潟県生まれ。中学生のときから科学者を志し、独学で研究を始める。高校卒業後、自由に研究をするべくさまざまな研究機関に連絡を取り、現在はMITメディアラボにて研究活動を行う。

文=森旭彦 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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