MITで働く21歳サイエンティストの「腹ペコの野性」#30UNDER30

ワイルド・サイエンティスト 片野晃輔

8月25日発売号「30 UNDER 30 JAPAN」にて、「ヘルスケア&サイエンス」部門で受賞した片野晃輔。

中学生のころから科学者を志し、自らの手で「がんをつくる」研究に没頭した片野晃輔。高校卒業後、大学に行かずに科学者になるべく、さまざまな研究機関に突撃。現在はMIT(マサチューセッツ工科大学)で研究を行っている。自らを「Wild Scientist」と呼称する、若き科学者の野性に迫る。

高校生のときに始めた「がんをつくる」研究

──片野さんは現在、MITメディアラボに所属しています。現在の研究について教えてください。

「エクスパンション・マイクロスコピー(ExM)」という特殊な顕微鏡技術をさまざまな対象に応用して、“細胞のグーグルマップ”のようなものをつくる研究を行っています。ExMは言ってみれば、ドラえもんの「ビッグライト」のような技術です。

たとえば、DNAというのは細胞中にある核の中に小さく折り畳まれていますが、このように高密度で小さな対象を高解像度で見ようとすると、顕微鏡を高性能なものにグレードアップする必要があります。しかし、顕微鏡は非常に高価なので、そうそう買い直していられません。そこでExMは、見る対象の側、つまり細胞そのものを膨らませて大きくしてしまう技術です。

細胞は、タンパク質といった分子などで構成されています。それらのタンパク質の分子それぞれを固定し、分子の結合を酵素や薬剤で切り、配置はそのままで間隔を広げてやると、対象が大きくなって観察がしやすくなります。顕微鏡は部品だけでも物によっては数千万円かかりますが、ExMを使えば5万円程度で、解像度をアップグレードできます。

初めにメディアラボを滞在したときはExMをブラッシュアップし、細胞の全マッピング実現を目指し研究していました。現在もExMを使うこともありますが、いまはあくまで手法のひとつとしてプロジェクトで活用しています。

──どのような経緯で科学者を目指したのでしょうか?

中学1年生のころに母親が乳がんになったんです。身近な親ががんになったことに、強いショックと危機感を感じました。しかし、ただ怯えていても何も変わらない。自分なりにがんのメカニズムについて勉強しようと思いました。そうして高校生のころに始めたのが「がんをつくる」研究です。

──「がんをつくる」というのは、「治す」とは正反対に聞こえますが?

あるモノを、何にも邪魔されず、自分でゼロからすべてつくることができれば、思い通りに壊すこともできそうですよね。ぼくが初めに「融合タンパク質を用いた部位特異的DNA修飾技術」の研究でやろうとしたのは、何にも邪魔されずにがんをつくり、モデル化を容易にすることでした。

そして着目したのが「エピジェネティクス」と呼ばれる研究領域でした。かつてDNAがすべて解読されたら、がんを含むすべての病気を治すことができると一部の人には信じられていました。しかし、DNAの全解読を行うプロジェクト「ヒトゲノム計画」が2003年に達成されると、DNAの情報だけでは理解できないこともたくさんあることがわかった。

それ以降、DNAはあくまで設計図であり、DNAの読み込み(発現)をコントロールしている、いわばDNAのスイッチのような役割を果たすものも重要であると考えられるようになりました。それが、がん発生のメカニズムにも深くかかわっていて、エピジェネティクスと呼ばれるものですね。
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文=森旭彦 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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